みっしょん21 ユルき戦いの果てに (2)
「か、勝ったのか……?」
「我らは決勝で負けたのになぜ?」
名前を呼ばれたゆるキャラ部の面々は、うれしい誤算ながらもどうしてそうなったのかわからず、ポカーンとした顔で呆然と立ち尽くす。
「どうしてそうなるネ!? わけわからないヨ!」
「それは明らかなルール違反ネ!」
他方、中国人会のメンバーからは当然のことながら再び抗議の声が上がる。
「まあ、まあ、話は最後まで聞いてくださいな」
しかし、飛鳥市長は手を前にかざして、彼らをなだめるようにして話を続けた。
「今、申しました通り、一番この濡良市の公認ご当地キャラに相応しいのはぬらりんだと思ったのでそう決めましたが、別に公認キャラクターはそれだけじゃありません」
「ハッ? どういうことネ?」
よくわかぬ市長の話に中国人会は全員揃って小首を傾げ、訝しげに聞き返す。
「もちろん、優勝したマントウくんも公認キャラクターとします……濡良市の中華街を全国に宣伝する市公認濡良中華街キャラとして」
「ナニ?」
「そう。そして、せんとーくんは濡良市の隠れた名物〝銭湯〟を市の内外に紹介する、市公認銭湯キャラ、なむなむくんは濡良市の歴史・文化を語る上で欠かせない〝寺院群〟を代表する市公認お寺キャラです」
「つまり、勝った者も負けた者も、全員、公認キャラクターにするということカ?」
「そ、それじゃ、インチキじゃないカ!?」
「じゃ、じゃあ、今までの戦いハいったい……」
そのなんともあやふやな判定に、李姐豆達は文句をつける。
「ハッハッハッ…まあ、いいじゃないですか。今日一日、一生懸命競い合っているゆるキャラ達の姿を見ていたら、どれも甲乙着け難くなりましてね。そもそも私は〝この選手権大会で公認キャラを選ぶ〟とは言いましたが、誰も優勝した者だけを公認キャラにするとは一言も言ってないですからね。それに、そんなユルい判定の方がよっぽどゆるキャラに相応しい感じがしないですか? いや、ゆるキャラだけじゃない……そう。こうしたゆる~いところこそが、この濡良の心なのですよ」
「ウ~ン…マア、我らも長年この地に住んでるから、その気風がわからんでもないガ……」
「ナンダカ、わかったようナ、わからないようナ……」
「とりあえず中華街、宣伝できそうだからイイケド……デモ、なんか納得いかないヨ」
そんなユル過ぎる濡良市長の判定に、中国人会の人々はどこか納得いかない様子ではありつつも、さりとてマントウくんは公認キャラに認定され、自分達の本来の目的も達成されたので、もうどう反応していいのかわからないといった複雑な表情をしている。
「ま、そういうことで条坊高校ゆるキャラ部の皆さん、君達のぬらりんを濡良市全体を代表する公認ご当地キャラとして認定します。おめでとう」
一応、中国人会の説得を終え、今度はゆるキャラ部員達の方へと視線を向けた飛鳥市長は、もう一度、改めてぬらりんを濡良市公認キャラにすることを宣言する。
「…………へ?」
予想外の展開についていけず、ただただ唖然とするゆるキャラ部員達は、その言葉にようやく我に返った。
「つまり、我らのゆるキャラが公認ご当地キャラになったということか?」
まだ半信半疑の様子で、茉莉栖が誰にと言うとでもなく尋ねる。
「まあ、言われていることは、どうやら、そういうことみたいだね……」
平七郎もどこか夢見心地な表情でそれに答える。
「あたし達、ついにやったんだ……」
ひかりは焦点の定まらぬ瞳で宙を見つめながら言う。
「ああ……あたいの作った着ぐるみが……」
「うん……おいらの開発したフレームが……」
「わたし達と、あなたがやったのよ……」
瑠衣が、真太が、そして、ぬらりんの顔を見つめる舞がいつもの抑揚のない声で告げる。
「あたし……やったんだ………」
ぬらりんの覗き穴から舞の顔とその背後に広がる澄んだ九月の青空を見つめ、鈴も確認するようにして呟く。
「あたし達、やったんだっ!」
「我ら、ゆるキャラ部の勝利だっ!」
「イエーイっ☆」
ようやく勝利を実感したゆるキャラ部員達は、喜びの声とともにその興奮を抑えきれず、その場で飛び跳ねてその感動を表現する。
「よーし! ここはいっちょ、応援席へ凱旋パレードに行くってもんだろ?」
「ああ、そうだな。奴らの前で錦を飾ってやるとするか……安室君、立てるか?」
「は、はい!」
それから瑠衣の提案で、部員達は鈴の入るぬらりん初号機を抱き起こし、条坊高校の応援席の方へと向かって行く。
ワーッ…!
「やってくれたなあ! ゆるキャラ部!」
「お前ら見直したぜ!」
「君達は我が条坊高校のヒーローだっ!」
部員達に支えられながら歩いて来るぬらりんの雄姿に、対する客席からは割れんばかりの拍手と歓声がまたも沸き起こる。
その様子を目がしらを熱くして見つめる茉莉栖達とぬらりんの中の鈴……と、そんな鈴の視界に、応援席に座る親友と憧れの先輩の姿が映った。
「あっ! シアちゃんと待井先輩だ!」
二人を見つけた鈴は感極まって、ぬらりんを着たままそちらの方向へと不意に走り出す。
「おおーい! シアちゃーん! 待井せんぱーい!」
「……な、なんだ? 着ぐるみがこっちに向かって走ってくるぞ?」
「せ、先輩、なんか、ゆるキャラに恨まれるようなことしました?」
雄叫びを上げながら迫り来る股引姿の爺さまに、待井とあずなは体を仰け反らせて言いしれぬ恐怖を感じる。
ドカン…!
「キャーっ!」
そのままの勢いでぬらりん初号機は客席に突っ込み、周囲にいた条坊高生達からも歓声に代って今度は悲鳴が上がる。
「おーい! シアちゃーん! せんぱーい! あたしだよお! 鈴だよおっ!」
そんな周りの迷惑顧みず、鈴はぬらりんの両手をばたばたと振り回し、なおも着ぐるみの中からくぐもった声で彼女達の名を呼び続ける。
「え? ……も、もしかして……中にいるの……レイ?」
どこか聞き憶えのある女子の声に、ようやくその真実に思い至ったあずなではあるが、到底、信じられないという顔でうわ言のように呟く。
「うん! そうだよ! あたしだよ! びっくりした?」
そんな親友の反応を見て、鈴はとても愉しげな様子でそう訊き返した。
「なにっ? 安室だって? 安室があれに入ってたのか?」
その驚愕の事実には、待井もこれ以上ないというほどに目を見開いている。
「な、なんでレイが着ぐるみに入ってんのよ……っていうか、あんた、もしかして、あがり症治った?」
「えっ? ……あ!」
驚く親友の口にした素朴な疑問に、鈴は今更ながらにそのことに気付いた。
「ああ! そうそう、大事なことを言うのを忘れていました……」
そうして母校の応援席に凱旋を果たしていたゆるキャラ部員達の耳に、思い出したかのように市長のマイクを通した声が再び聞こえてくる。
「濡良市の公認ご当地キャラになったからには、もちろん、この市のPRのために働いていただきたいと思うのでありますが、さっそく来月に濡良市の名を全国へ広めることのできる一大イベントが控えております」
「一大イベント? ……ってまさか…」
その言葉に、茉莉栖は何か思い当たる節があるとでもいうような様子で呟く。
「
「全国ゆるキャラ・グランプリって……あの、かまもんやへなっしー、ワリィさん、マロン熊、なまーるくん、めきゃんを始め、全国の名だたるゆるキャラ達が一堂に会して覇を競い合う、あの、アカデミー賞に匹敵するゆるキャラ界最大の大イベントか!?」
市長の話を聞き、平七郎は驚きとも、恐れともとれる声を畏怖の念を持って上げる。
「うん。ゆるキャラ・グランプリって言ったら、それしかないね……」
ひかりもその格式ある一大イベントの御名に、体を微かに震わせながら恐る恐る呟く。
「10月下旬か……こりゃ、急いで着ぐるみを補修しなきゃいけないねえ……」
瑠衣が面倒臭そうに、だが、どこかうれしそうに腕を組んで言う。
「全国大会ともなると、今以上の性能アップが必要になるな……」
真太は来るべき戦いに向け、すでに新たな構想を練り始めている。
「乃木司令、次はわたしがぬらりんに入ります……その頃には怪我、治ってるだろうし」
松葉杖を突いて立つ舞は、茉莉栖の方に体を向けると唐突にそんなことを申し出る。
「いいや! 次もあたしが着るよ! こうなったらもう、あたしがこのぬらりん初号機の正規装着者なんだからね!」
対して鈴も舞と張り合うかのように、ぬらりんの中からそう茉莉栖に訴える。
「フッ…次なる敵はあのかまもん達か……相手にとって不足なし! ゆるキャラ・グランプリ、我らゆるキャラ部も参戦してやろうではないか……」
茉莉栖はまだ見ぬ強敵、現在、ゆるキャラ界の頂点に君臨するキャラ達のユルい姿を空に浮かぶ真っ白な雲な幻視し、不敵な笑みを浮かべると堅く拳を握り締める。
「今度は全国! 我が同胞達よ、打倒かまもん目指して次なる
「オーッ!」
そして、ゆるキャラ部部長の掛け声とともに、新生ゆるキャラ部員達&鈴の入るぬらりんは、その拳を大空高く、だけど、どこまでもユルく突き上げた。
(ゆるキャラ☆うぉー おしまい)
ゆるキャラ☆うぉー 平中なごん @HiranakaNagon
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