みっしょん16 開幕! ご当地キャラ大選手権大会
「――え~本日は晴天にも恵まれ、天もこの記念すべき濡良市始まって以来の一大イベントを応援してくれているかのようです。本〝幻の濡良遷都1300年記念・ご当地キャラ大選手権大会〟は、出場するゆるキャラの4チームはもちろんのこと、ここにお集まりの皆様もまた参加者である、まさに濡良市民全体を挙げての記念行事なのであります」
満員御礼の〝伝遷都予定地公園〟に、会場中央の壇上に立つ濡良市長・飛鳥京一の開会の言葉がスピーカーから木霊する。
「
「おい! 話長げーぞーっ!」
「早く始めろーっ!」
「オヤジは引っ込んで、ゆるキャラを出せーっ!」
しかし、もう待ちきれない観客席の中からは、延々と続く開会の言葉に野次の声が上がり始めている。
「そ、それでは、話も長くなりましたので、そろそろ選手権大会を始めたいと思います」
その様子を見かねた秘書課職員が市長に耳打ちをすると、飛鳥市長はようやく演説を切り上げて次に移る。
「さあ、濡良市公認ご当地キャラ候補の皆さんの登場です!」
パーパパパパーパパパパーパパパパー♪
市長の指示を受け、司会を務める地元テレビ局の女子アナが業界独特のテンションを持った声でアナウンスをし、県警楽隊のファンファーレが会場に響き渡る。
そして、応援席から湧き上がった歓声と楽隊の奏でる
各ゆるキャラ達の着ぐるみは、所属団体とその名称の書かれたプラカードを掲げるミス濡良市もしくは準ミス濡良市の後について、順次、会場の広場へと入場して来る。
「最初の登場は、濡良市銭湯組合の〝せんとーくん〟です」
よく通る女子アナの声に紹介され、先ず現れたのは濡良市銭湯組合が作った「銭湯」と「遷都」をかけた名前のゆるキャラである。
市内で開業する銭湯の店主達の集まりであるこの組合が考え出したキャラクターは、禿げ頭に捻じり鉢巻きを巻き、白のランニングにズボンの裾を捲り、いかにも頑固そうな顔でデッキブラシを持った、〝古き良き昭和な銭湯のオヤジ〟といった感じのものである。
「こいつを公認キャラクターにして、銭湯業界に活気を取り戻すんだ!」
着ぐるみの介添役として左右に付いて歩く、これまたそのキャラクターに似て怖そうな顔をしたオヤジの一人が、万席の会場を見渡しながらその鼻息を荒くする。
なぜだか理由はわからないが、濡良市には銭湯が多い……。
なので、確かに銭湯というのは濡良市の特徴を示すものの一つではあるのだが、それにしても、このオヤジキャラクターの顔はリアルで怖過ぎる。
ゆるキャラというよりは、きもキャラと言った方がいいのではないか?
というような疑問を抱かせる造形である。
この銭湯組合のオヤジ達、ゆるキャラのなんたるかをまるでわかっていないようだ。
「二番手は、濡良市仏教寺院連合会の〝なむなむくん〟です」
続いて現れたのは、濡良市内に存在する仏教寺院の住職達が作ったゆるキャラである。
「やはり、濡良市といえば寺の町よ……」
介添の僧侶が言うように、濡良市の特色といえば、先ず第一に挙げられるのが寺の多いことである。
そこで、これは自分達の出番だと、仏教寺院連合会もこのイベントに参加することを決めたのだった。
そのキャラクターはやはりお寺ということで、小坊主さんの格好をした、カワイらしい墨染の衣姿のものとなっている。
名前は「南無阿弥陀仏」や「南無妙法蓮華経」、または「南無南無…」と拝む時に唱える、その〝
「続きまして三番手は、濡良市中国人会の〝マントウくん〟です!」
「イヤ、濡良市と言えば中華街ダヨ。コノ勝負、ワタシ達が絶対、勝ネ」
三番目に登場したキャラクターの介添人は黒いカンフー服を着て、どこかおもしろいイントネーションで語っている。
というのも、彼らは市内にある中華街の人々や中国からの留学生等で作られる濡良市中国人会という集団の代表なのだ。
これまたどういった理由なのか定かではないが、内陸部には珍しく濡良市には中華街があり、古くより中国人が多く住んでいたりもする。
それ故、このイベントを期に濡良市の中華街のことをより広く世間に知らしめようという自分達の野望とも相まって、彼らもまた出場を決意したのだった。
そんな彼らの生み出したキャラクターは、濡良の中華街の露天で売られ、隠れた名物となっている
その
「そして、最後に四番手は、唯一高校生の参加となります、条坊高校ゆるキャラ部の〝ぬらりん〟です!」
最後の一体――条坊高校ゆるキャラ部の〝ぬらりん〟が会場に姿を現すと、一際大きな歓声が条坊高校の応援席から湧き上がった。
「見ろ。これまで我らを小馬鹿にしてきた者達が、ああして声援を送ってくれている……まさか、このような日が現実に訪れるとはな」
その夢のような光景に、介添役として付いて来た茉莉栖が感慨深げに心情を吐露する。
「うん。ほんとだね。もう感動一頻りだよ」
そう答え、もう一人の介添え役であるひかりも目をうるうるさせて微笑むのであったが、よくよくその歓声を聞いてみると、それは彼女達の思っているようなものとは微妙に違っていた。
「な、なんだ、あのジイさんは……」
「実物は初めて見るが、あれがうちのゆるキャラか……」
「ゆ、ユルい……ユル過ぎる………」
中には装着実験で見かけた者も僅かにいたが、学校新聞の写真でしか見たことのない者や、それどころかまったく見たことのなかった大多数の者達は、初めて目の当たりにする〝ぬらりん〟の雄姿…というか、飄々とした爺さんの姿に驚愕の声を上げていたのだった。
そんな中、しばし皆と驚きを分かち合っていたあずなは、不意に思い出したかのように他の生徒達とは違うところに意識を傾ける。
「あ! そういえばレイ、やけに遅いな……ここならすぐに見つけられると思うんだけど……もう、どこ行っちゃったんだよう――」
「――あ、あんなたくさんの人達がこっち見てる……や、やっぱりダメだ……」
無論、あずなが知る由もなかったが、そうして彼女が会場を見渡して探す当の鈴本人は、今、目の前で人々の注目を一身に浴びる着ぐるみの中で緊張しまくっていた。
思わずあんな啖呵を切って装着者役を買って出てしまったが、いざ大勢の観客を前にするとやはり鈴はあがってしまう。
〝KG(着ぐるみ)フィールド〟という自身と観客との間を隔てる緩衝壁が一枚あったとしても、そんな薄っぺらい壁、彼女の〝アンチKGフィールド(あがり症)〟はいとも簡単に突破するほどの強力なものだったのである。
「ど、どうしよう……」
ここまで来て、今更ながらに後悔の念に駆られる鈴だったが、無情にも大会の式次第は淀みなく進んでいった……。
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