みっしょん14 安室、迷う(2)
「――ハァ……」
どこをどう走ったものか、待井達の前から逃げ出した鈴は、公園内にいくつかあるトイレの一つに駆け込んでいた。
洗面台で上気した顔を冷水で洗い、鏡の中に映る自分の姿を見つめる……。
今だ熱で火照った顔をしている己を見ていると、なんだかまた恥ずかしさが戻ってきてしまう。
「もう、先輩ったら……〝そんな意味〟じゃないってことは重々わかってるけど、それでもあんな、す、す、す…〝好き〟なんて言われたら、誰だって赤面しちゃうよお……」
耳に残るその声にまたもや紅潮しながら独り呟くと、鈴はトイレから出て辺りを見回した。
周囲はごった返す人々の波で溢れ返っている。
「あっ! ……しまった。シアちゃん達とはぐれた」
その光景を前にして、彼女はようやくその事態に思い至った。
先程はそんなこと考える余裕もなかったのであるが、どこで落ち合うかという約束もせずに、この人ごみの中からあずな達を見つけ出すのは容易なことではない。
「でも、
しかし、今の世の中、便利なもので、彼女にはスマートフォンという頼もしいツールが装備されている。
鈴は現代文明の進歩に感謝しつつ、ポケットから〝RENPOU〟なるメーカーの
[今、どこにいるの?]
そんな短い文面のメッセージを、鈴はあずなに向かって送る――。
「――もう。レイったら、やっと連絡して来たか……」
そのLIGNEを見て、あずなは眉を「へ」の字にしながら、素早い指使いで自身のスマホを弄くり始める。
ちなみにあずなのスマホは〝KOUKOKU〟社の赤いモデルだ。
その頃、あずなはというと、待井達陸上部先輩ご一行様ともども、応援に来た同校の生徒達が集まる条坊高校専用の桟敷席にいた。
周りは私服や制服を着た生徒達で埋め尽くされ、生徒会の要請があったのか? 吹奏楽部や応援団なんかまでついて来ている……。
甲子園か? と見紛うようなお祭り騒ぎであるが、やはりみんな、あずな達と考えることは一緒のようだ。
「よしできたと……」
[先輩達と条坊校の応援席だけど……てか、そっちこそどこさ?]
時を置かずして、通常の3倍の速さで文章を作成すると、あずなはそんな返事を送る。
[応援席……って、どこ?]
だが、またしても疑問符の付いた返事が鈴からは返って来る。
「て、場所知らずに一人でどっか行っちゃったんかい……まったく、相変わらずのおっちょこちょいさんなんだからあ……」
[公園の西側。条坊高校のプラカード刺さってるとこ。あと〝ゆるキャラ上等!〟って書いた〝族〟だか応援団だかよくわかんない横断幕持った連中とかもいるから]
あずなはスマホ片手に独りブツブツ文句を口にしつつ、今度は少し長めの文面で
[了解! じゃ、また後で]
すると、今度はわかったのか、どうやら問題解決したらしい返事をようやくにしてあずなは受け取ることができた。
「ふぅ……」
「安室からか?」
困った親友のために一仕事終え、溜息を吐くあずなにとなりの席の待井が尋ねる。
「はい。なんか、ここの場所がわからないみたいで」
「そっか。ま、これだけうちの生徒が集まってりゃあ、すぐわかるだろう」
ほんと、困った子ですよねえ…といった感じの顔で答えるあずなにそう言うと、待井は鈴の姿を探すように群衆でごった返す会場の様子を眺めた――。
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