みっしょん9 ゆるキャラ部補完計画(1)
高村ひかりがオリジナルゆるキャラの着想を得て、東郷平七郎が三人の臨時会員スカウトに成功したその週の、それよりあれこれあって週末となった土曜日の昼下がり……。
新クラブ棟の一室に、新メンバー三人を加えた「ゆるキャラ同好会」改め「ゆるキャラ部」の面々がまたも休日返上で集まっていた。
これまでの朽ち果てた古い部室とは違い、新たにあてがわれた…というか、やや強引に奪い取った真新しい新クラブ棟の部室正面奥には、「祝! ゆるキャラ部昇格!」と大きく筆字で書かれた白い横断幕が威風堂々と掲げられている。
今日は人数が五人を超えたことによる部への昇格祝い及びに新入部員歓迎会、並びに新たな部室への引っ越し記念、兼高村ひかり作濡良市ご当地キャラ選手権大会出場予定ゆるキャラのデザイン披露パーティーなのである……ハァ、長い。
「それでは、さらなる条坊高校ゆるキャラ部の発展を願って、乾杯ぁーい!」
手にした紙コップを高らかに掲げ、横断幕の前に立つ部長の茉莉栖が乾杯の音頭を取る。
「カンパーイ!」
するとそれに続いて部員達も楽しげな声や面倒臭そうな声ない交ぜに、紙コップを彼女の方へとかざした。
無論、未成年であるので、コップの中身はソフトドリンクである。
また、酒ならぬソフトドリンクの肴に中央の長机の上にはポテチやら何やらいろいろなお菓子が並んでいる。ちなみに誰の趣味なのか、スルメや裂きイカなんて渋いものまである。
「さて、こうして人数も六人に増え、部へもめでたく昇格したわけなのだが、これは単なる通過点に過ぎない。我々の目標はあくまで選手権大会で優勝を勝ち取り、我らの作ったゆるキャラを濡良市公認のご当地キャラにすることだ!」
茉莉栖は部員達を前に、コップに入った「正午の紅茶」なる銘柄の清涼飲料水を一口飲んで唇を潤すと、硬く拳を握りしめてそんな熱弁を振るう。
「それに向け、この目的達成のための計画『
その言葉に長机の正面から向かって左側に横並びに座る臨時部員の三人が、ちらちらと互いの顔を見やった。
こうして一同に会して顔を合わすのは初めてのことなのである。
「では私からだが、部長という役職上、本計画では総合的な作戦の指揮を執る。いわば〝司令〟だな。まあ、乃木司令とでも呼んでくれ。階級に当てはめて〝大将〟でもいいぞ?」
そうした軍事関連のこともけっこう好きなのか? 茉莉栖は妙にミリタリー色満載に、そんな部員達の紹介を続けて始める。
「次は副部長の…いうなれば〝副司令〟の東郷平七郎君だが、君達臨時部員のスカウトを担当してもらった彼には、以後、各担当のサポート的な任を負ってもらう」
「ま、そういうわけなんで、困ったことがあったら何でも相談しておくれ☆(ウインク)」
茉莉栖が次に平七郎を紹介すると、長テーブルの右側、一つ茉莉栖の席を開けて真ん中に腰掛ける彼は、背もたれにもたれかかると長い脚を組み、なんだかホストのような座り方でそう言って片目を瞑る。
「………………」
そんなチャラ男の挨拶に、臨時部員三人の内、彼にあまりよい印象を持っていない尾藤瑠衣と西村真太は憮然とした表情で彼のことを見つめている。
また、荒波舞は特になんの関心もないのか? いつもの通りの無表情である。
「続いて、そのとなりにいる高村ひかり君だ。部の記録係として誰よりも知識豊富な彼女には、オリジナルゆるキャラの根幹をなすデザインとその名称を考えてもらっている。それが着ぐるみの設計図の基ともなるわけだから、彼女の役職は着ぐるみ等の制作を統括する技術将校といったところだな」
三人目に茉莉栖はさらにそのとなり、部屋の入口側の席に座るひかりを紹介した。
「エヘヘ…まあ、そんな大したもんじゃないんだけどね。一応、あたしがデザインをさせてもらってるんだあ。こんな不束者ですけど、みんな、よろしくね☆」
茉莉栖のその言葉に、ひかりはカワイらしく照れて頭を掻きながら、ある種の人間には殺人的すぎる、萌え萌えキュンな苦笑いをその童顔に浮かべる。
「よ、よろしく、お願いします……」
その上級生ながらにロリロリなカワイイ笑顔に、真太は思わず顔を赤らめた。
「ハァ……あ、ああ、よろしくね」
姉御肌な故、こうした守ってあげたくなるような童顔の美少女には実は弱かったりするのか? となりの瑠衣もなぜか頬をピンク色に染めている。
「よろしく……」
相変わらず舞だけはボブの髪を微塵も揺らすことなく、無表情のままそう答えた。
「それじゃ、ここからは新たに入った臨時部員だ。こちら側から、先ずは手芸部より来てもらった尾藤瑠衣君。彼女は着ぐるみの外部装甲担当の技官だ」
続いて、茉莉栖は臨時部員の紹介へと移る。最初は長机の左側奥に座るその瑠衣からだ。
「ああ、えっと、あたいは2年1組の尾藤瑠衣だよ。ま、成り行き上とはいえ、引き受けちまったからには仕方がない。あたいが最高の着ぐるみを作ってやるよ」
呼ばれた瑠衣は椅子に腕を組んで踏ん反り返ると、大工の親方の如き堂々とした態度でそう挨拶を述べる。
「そのとなりがロボコン部出身の西村真太君。彼も尾藤君と同じく着ぐるみ制作に携わってもらう技官だが、こちらは着ぐるみの内部構造担当だ」
「ども。2年3組の西村真太です。おいらもこうなったからには、自分の持つ知識と技術のすべてをこの着ぐるみに注ぎ込むつもりでいるよ」
真太も簡単に挨拶すると、瑠衣と同じく半ば破れかぶれ的な決意表明をする。
「そして、最後が着ぐるみ装着者の荒波舞君だ。荒波君は全国大会でも好成績を残している水泳部の出身だ。着ぐるみを操る者としては申し分ない身体能力を備えた逸材だろう」
最後に、茉莉栖は左側一番入口寄りの舞を紹介した。
「2年2組、荒波舞です。よろしく……」
舞の挨拶は、やはり短く素っ気ないものである。
「ちなみに着ぐるみ装着者にはもう一人、控えとしての候補者がいたのだが、その人物には固く入部を拒まれてしまった。まあ、それでも初めから補欠人員として考えていたし、何か大事がない限りは荒波君一人いれば問題なかろう」
全員の紹介をし終えた茉莉栖は、安室鈴のことも一応、名は伏せて付け加える。
「ええ。わたし一人いれば十分だわ……」
すると、舞も無表情のまま、感情の読み取れない小さな声でぽそりと茉莉栖に答える
「お二人にそう言ってもらうと、失敗した当の本人としても気が楽になるってもんだよ」
それを聞いて平七郎も、いつものおどけた調子でそう口を挟む。しかし、いつになく女の子のナンパに失敗した彼は、どこかちょっと悔しそうな様子だ。
「さて、これで現在のゆるきゃら部の部員は全員だ。見ての通り3年と2年だけで1年はいないが、精鋭のみで当たらねばならぬ本作戦の性格上、まだデータのない新1年生は受け入れないことにした。念のため断っておくが、別に勧誘チラシ配ったのに入部希望者が誰も来なかったわけではないぞ? 断じてそんなことはないのであしからずだ」
「いや、きっと誰も来なかったんだな……」
「だね……」
部員紹介を締めくくり、誰も訊いちゃいないのになぜかそんな言い訳めいたことをわざわざ口にする部長の茉莉栖に、瑠衣と真太は憐れむような目をしてそう小声で呟く。
見ると、平七郎とひかりも打ち沈んで負のオーラを全身から立ち昇らせている。
が、その呟きを聞いても聞かぬふりをして茉莉栖は冷静を装い、それ以上の追及を避けるかのようにさっさっと式次第を進めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます