第6話
「…僕に、お迎えに来てほしいですか?」
不意に口をついて出た言葉は死神としてあるまじき言葉だった。クリスも自覚はあった。
やってしまった、という気持ちと、返事を聞きたい好奇心から耐えてその場に立っていた。
手のひらをきつく握りしめ、視線はしっかりと鐘田トメに向けた。
もし必要とされれば死神としての仕事にも誇りが持てるのではないかと、期待していたのかもしれない。規約違反ではないんだ、希望があるならお願いして回収にくればいい。そう考えていたクリスは自身の鼓動か、鐘田トメの鼓動かわからない音を永遠にも思えるほど長く聞いた。張り詰めた空気の音さえ聞こえてくるようだった。
ようやく鐘田トメがふっ、と微笑み答えた。
**********
「いやー!今日も活躍しました!俺!」
真紅の髪を靡かせてアレンは大きな独り言を零した。
通達も無事に終わった、回収リストの魂も無事回収したとなると、あとは魂を吊るすために大木へ向かうだけ。順調にことが進んだからどこかへ飲みに行こうかと考えながら歩いていた。
もうすぐ大木に到着しようかという時。見慣れた後ろ姿を発見した。
「あれは…クリス、か?」
アレンが疑問に思うのも無理はない。
ただでさえ自信なさそうな立ち振る舞いのクリスが、いつも以上に負のオーラを纏っているように見えたからだ。あのアレンでさえ声をかけようか、かけまいか悩むほどに。
しかしそこはアレン。声をかけようと腕を高く振り上げ足を前に出した。
「クーリースー!お疲れーぃ!」
スキップした勢いで腕をクリスの肩へ着地させる。隣に並んだ際に足を揃えて意気揚々とクリスの顔を覗き込む…予定だったのだが視線は合わなかった。しかし代わりにいつも以上に負のオーラを纏っている気がした理由は判明した。
いつも以上に曲がった猫背と、いつも以上に直角に垂れた首のせいだった。
「おい?なんかあったのか?」
「あぁ、アレン…。君はどうしていつも話しかけてほしくない時に現れるんだろうね…。」
いつもの毒気にも全く鋭さがない。
仕方ないなあ、と呟き、今日のアレンの飲み相手は決まった。
「まずは大木に向かわないといけないから、その後、あそこの角にできた新しい飲み屋行ってみよーぜ!」
「人の話聞いてた…?飲みになんか行かないよ…」
「いーや!今日という今日は飲みに行く。付き合ってもらうからな!ほら、行くぞ!」
クリスの事など意に介せず引きずるように連れていくアレン。口では何かというものの、クリスも今日は無抵抗だった。
大木まではほぼ一本道で出来ているから、引きずっていくのも難なく済んだ。
「今日の魂も綺麗だな。」
「うん、そうだね…。」
「話、聞くからな」
「うん…」
引きずりつつ、引きずられつつ、友だちのような会話をしながら2人は大木へ向かった。
アレンは仕事を楽しくこなしている。責任感もある。しかしクリスは責任感こそあるものの真逆だ。いつも何かに恐れながら、なぜ死神をしているのか理解できないまま、なんとか日々を過ごしている。
そんなクリスをアレンは以前から放っておけなかった。他の死神達には白い目で見られ、アレンにも関わりを辞めろと勧める程のクリスを1人にはしておけなかった。
なぜ、ということは理解できていなくても、クリスは人一倍優しい。だから仕事が辛く感じる。だからこそ、クリス自身が優しくされるべきだとアレンは思っていたのだ。
そして今がまさにその時だと。
このままではクリスが潰れてしまうと、今までにないほど感じていた。
大木につき、魂を吊るす。
この魂達がまた、もしくは今度こそ、来世で幸せな時間を過ごせるように願いを込めて。
「じゃ、行くか。」
「うん。」
2人は大木を背に先程の一本道を、今度は自分の足で歩いていった。
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