第4話

死神の仕事は基本的に2つに分けられる。

回収と、通達。


回収は言葉の通り、魂の回収だ。

これは単純に回収するパターンと、自殺者の魂を回収するパターンに分かれる。

自殺者だけが別枠の理由は、年々自殺が増加傾向にある為、死神の通達と回収が追いついていないのだ。

回収できないまま放っておくと地縛霊になったり、地縛霊の餌になったり。

悪魔が喜ぶような良くないことしか起こらない。

しかし死神が回収し、死神界の中心にある大木へ吊るしておくと、その魂は輪廻転生が可能になり、また人間界へ何らかの形で生をなす。

だから通達や通常の回収が少ない日に自殺者の魂も回収しに行く。

ちなみに、通達と回収を同じ死神がするという決まりは特にない。通達をするだけして、別の死神が回収に行くこともあるし、逆も然りだ。


そして2つ目が通達。

これが死神をイメージする上で最もわかりやすい仕事で、クリスが最も苦手とする仕事だ。

いつ、何故死ぬのかを本人に直接伝えなければいけない。

そして、本人から他者へ死神の存在がバレないように釘を刺し、場合によっては術をかけなくてはないけない。

通達をしたら後日、魂の回収へ向かう。回収までの期間は魂によってそれぞれだが、長くて1週間程度だ。


そして全ての死神は、担当エリアが割り振られている。死神睦陣連合協会で指定された6エリアで大まかに所属が分けられ、そこからさらに細分化される。

クリスの所属は第参陣の日本エリアだ。ちなみに言語的な問題はない。所属するエリアが母国語以外だった場合、エリア長から1粒の種を貰う。その種を飲み込むとどういう仕組みなのか、言葉が通じるという訳だ。


ここまでの内容は一人前になる前に全ての魂が集まる講習会で教わる内容だ。


この通達と回収を繰り返すだけの単純な仕事を死神達は使命感と誇りを感じ日々こなしている。

彼らはもともは人間として生を受け、人間界で生活をしていたが、回収リストの魂と同じようにもう亡くなった人間たちだ。

それぞれの死に際に出会った死神へ感謝を感じた魂が死神になる資格を得ることが出来るようになっている。だからこそ無事に死神になれた者は誇りを持って魂を回収している。


しかしクリスにはその時の記憶が無い。

なぜ記憶がないのかも分からない。

気が付いたら死神として働いており、どうして死神に感謝したのかも分からないため、他の死神のように誇りや使命感を感じられないのだ。

その中でもいかに傷付けないように伝えられるかクリスなりに試行錯誤しながら、仕事を続けていたのだった。



そして、坂井美幸へ通達を済ませた夜。

死神界に帰ったクリスはその日に回収した自殺者の魂を持って、大木まで来ていた。


いつからあるかも分からないこの大きな大木にたくさんの魂が吊るされている。

ひとつひとつの魂は少しずつ浄化されて、少しずつ輪廻転生の流れに混ざっていく。その光景はまさに“この世のものでは無い美しさ”である。人間界が好きな死神はコムローイという祭りが1番近いと言っていた。

クリス自身は、そのコムローイという祭りを知らないので実際どの程度似ているのかの真偽は不明だが。また別の死神は花火とも言っていたか。


しかし、大木いっぱいに吊るされた魂が、浄化の際に光ったり消えたりするのは人間界の満開の桜のようで本当に美しい。

魂によって色も違うため、桜ともまた違う風景になる訳だ。

仕事が無事に終われば毎日出向く場所であるが、毎日違う花を咲かせる。

見るもの全てを魅了し、吸い込まれていくような視界いっぱいの淡い光にクリスは呼吸を合わせ、見上げていた。


明日にはまた、違う魂のもとへ向かわなければならない。

嫌でも進み続けなければいけない。通達と回収を繰り返す。それが死神だから。


「…それが僕の仕事、だから。」


坂井美幸にはせめて後悔なく浄化されてほしい。あんなに努力している夫婦はいない。心からそう思っている。

クリスはしっかりと、ちゃんと、観察していたのだ。

護の為に変わらない自分を懸命に演じる美幸と、美幸の努力に気付かない振りをするべく、料理が完成してから帰宅するように家の前で小一時間待ち続けた護を。

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