第5話 約束

 英玲奈えれなは怒っている真希音まきねを無視して工場の中を案内した。工場の中では、金属の音や機械の音が大きく鳴り響いていた。


 奥に進み英玲奈えれなの部屋に案内された。部屋には、たくさんのプラモデルやポスターが飾ってあった。そして、英玲奈えれなは気まずい空気を気にせず話した。


「とりあえず、マッキーがたくさんお菓子買って来たから食べよ~」


 真希音まきねはスマホのメールを英玲奈えれなに見せながら言った。


ってそういう事か・・・」


 二人の会話を瑠衣るいが聞いて英玲奈えれなに尋ねた。


「えっ、二人って仲良いの?」


 英玲奈えれなは笑顔で答えた。


「学校ではマッキーが無視するから話さないけど友達~」


 真希音まきねは少しイライラしながら英玲奈えれなに言った。


「友達ではない!お客さんだ!あと、マッキーはここではやめろ!」


 自然と空気和やかになった。そして、英玲奈えれなは紙コップやお菓子を開けて準備をした。準備が出来ると英玲奈えれなは立ち上がった。


「二人の仲直りをするためにごめんなさいと乾杯しよ~!」


 真希音まきね瑠衣るいはここで初めて目を合わせた。そして、顔を赤らめながら同時に言った。


「ごめん」

「ごめんなさい」


 それを聞いた英玲奈えれなは大声で言った。


「それでは、コップを上にあげて行きますよ~」


 3人は口を揃えて大声で言った。



 団結した気持ちが全員に伝わり、3人とも自然な笑顔が出た。真希音まきねの笑顔を初めて瑠衣るいは見たのであった。


 しばらくして英玲奈えれなが話を切り出した。


「さてさて~これからのスケジュールを発表しまーす~!」


 真希音まきね瑠衣るいは何の話か分からない様子だったが、英玲奈えれなは続けて言った。


「夏の大会まで3か月あるから、どうやって優勝するか考えよう~」


 英玲奈えれなの発言に真希音まきねはムッとして言った。


「ラリーはやらない・・・」


 英玲奈えれなは笑顔で言った。


「ライセンスも免許も持ってる友達が目の前にいるのに~?」


 真希音まきねは目線を瑠衣るいに向けた。しかし、すぐに視線を逸らしてお菓子を食べた。瑠衣るいは勇気を出して言った。


「私ね!高校に入学してから部活にも入らず趣味もなくただ授業を受けてるだけの生活を送ってたの。初めてラリーの車を見たり真希音まきねの姿を見た時に、凄くカッコ良いって思ったんだよね。もちろんわがままなのも分かってる。だから、私はここで最後のお願いするよ。


 真希音まきねはいつの間にか食べるのを止めて真剣に話を聞いていた。そして、真希音まきねは紙コップにあるジュースを飲み干して瑠衣るいに言った。


「ヤリスは2人しか乗れないし、荷物も置けないし困ってたんだよな・・廃車にしたらオヤジの思い出が無くなっちゃうし・・」


 英玲奈えれなは少し怒った口調で真希音まきねに言った。


「マッキー!結局始めるの~?始めないの~?」


 真希音まきねはしばらく下を向いて考えた。そして、目線を瑠衣るいに合わせて言った。


「廃車にしたら、死んだオヤジがもっと悲しむかもな・・


 真希音まきねの言葉を聞いて、瑠衣るいはもう一度聞き返した。


「えっ、良いの?本当に始めるの?」


 真希音まきねはその言葉を聞いて瑠衣るいを睨みながら言った。


「何回も言わせるな!」


 英玲奈えれなはその会話を聞いて大声で話した。


「では、これからの計画を発表するよ~!来週の土曜日に練習走行会に行こ~」


 真希音まきねはすぐに反応した。


「待てよ!車が壊れたらどうするんだ?車の仕組みとか分からないぞ・・・」


 英玲奈えれなは笑顔で答えた。


「締め切りは大丈夫だよ~!車の修理は私が見るから~任せて~!」


 真希音まきねは驚きながら言った。


英玲奈えれなって車分かるのか?てか、3人でどうやって会場に向かうんだよ?」


 英玲奈えれなはドヤ顔で財布から免許を取り出して、真希音まきねに見せた。


「私も免許持ってます~!工場の積載車なら3人乗れるし、工場の娘だから毎日勉強してるから大丈夫だよ~!あと調節するから来週まで車置いて行ってね~」


 真希音まきねは心配な表情で英玲奈えれなに言った。


「私しか車に乗らないから別に良いけど・・・!」


 そして、外の景色がオレンジ色になり暗くなる前に解散した。バスで真希音まきね瑠衣るいは一緒に帰った。真希音まきね瑠衣るいに向かって言った。


「やるなら真剣に最後まで諦めんなよ。せっかく私がやってやるんだし、英玲奈えれなも巻き込んだ訳だしさ。約束だからな!」

「もちろん!約束するよ!絶対に諦めない!目指すは優勝だ!」

「ばーか!そんなに甘くないよ!」


 バスに揺られながら二人は友情を再確認した。そして、瑠衣るいはその日からラリーについて勉強を始めた。


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