第4話 すれ違い

「そうか・・・瑠衣るいちゃんは知らないのか・・・」


 そう言うと店主は去年の夏の出来事を話してくれた。外は夕日に染まって気分が少し落ち込む時間帯になっていた。


「小さい頃から運転の才能があって、レースに参加しては優勝をして真希音まきねちゃんは将来大きくなるぞって思ってたんだ。それで、高校3年生になってすぐに自動車の免許と国内B級ライセンスを取ってラリーをお父さんと始めたのさ。真希音まきねちゃんのお父さんは元WRCのチャンピオンってことも知っていたから、うちの店にスポンサーの話が来たときは、嬉しかったなぁ~。そして、去年の夏に真希音まきねちゃんにとって初めての大会で見事優勝したんだよ。優勝した時は、史上初の最年少とか将来有望とか騒がられてたんだけどね・・・」


 店主は楽しそうに話していたがいきなり話が止まった。店の壁のポスターを見つめて、店主は息を吸い込み瑠衣るいに話した。


真希音まきねちゃんのお父さんは大会の1週間後に交通事故で亡くなったんだ・・・。」


 予想外の発言に瑠衣るいは何を言っていいのか分からず驚くしかなかった。その姿を見た店主はすぐに話を続けた。


「でもあの子は強いよ!普通だったら葬式の時に大泣きするだろ?真希音まきねちゃんは一滴の涙を流すことなく泣かなかったんだ。人前で弱いところを見せないのは、あの子の性格だな。でも、やっぱり精神的にキツかったのか高校を留年しちゃって心配したけど、友達が出来たならもう安心だな。本当はラリーの才能あるからコ・ドライバー探して大会出て欲しいけど、お父さん以上の人は見つからないよな。」


 店主はそう言うと、すき焼きのお肉を持って来た袋に入れてくれた。


「今日はおまけして、3千円でいいよ!その代わり真希音まきねちゃんをよろしく頼むよ」


 店主の笑顔と気前の良さで、不穏な空気が一気に吹っ飛んだ。そして瑠衣るいは笑顔で話した。


「ありがとう!今度は真希音まきねと一緒に来るね!」


 家に帰ると、おいしそうなお肉を見て気分が高まった。そして、一人すき焼きをして幸せの気持ちになった。その夜から毎日ラリーについて調べるのが日課になった。趣味がちょうど無かった瑠衣るいには物凄くカッコよく魅力があるものだった。そして、誕生日を迎えて1か月後に瑠衣るいは真剣な顔で真希音まきねに言った。



 唐突な質問に真希音まきねはキョトンとしていた。しばらくして真希音まきねは答えた。


「急に何?ラリーはもうやらないし、そもそもコ・ドライバーが居ないし」

「私がコ・ドライバーになる」

「いや、免許だってライセンスだってないでしょ!」

「免許も国内B級ライセンスも取ったよ!だから、お願い私と一緒にやろ」


 瑠衣るいの言葉を聞いた真希音まきねは席を立ち上がり怒鳴った。


「なんで?そこまでやるの?もうラリーに興味ないから!!」


 真希音まきね瑠衣るいに大声で怒鳴ったため、クラスには不穏な空気が漂った。瑠衣るいは臆せず言い返した。


「本当はやりたいんでしょ?大会に優勝したのにもったいないよ」

瑠衣るいに何が分かるの?オヤジが凄いだけで私は凄くないし・・・」

「それは違うね!一緒に戦って優勝したんだからどっちも凄いよ!」

「・・・とにかく、やらない!」


 真希音まきねの頑固な姿を見て、瑠衣るいは口を滑らせてしまった。


「お父さんが死んだから?」


 瑠衣るいは急いで訂正しようとしたが、真希音まきね瑠衣るいを睨みつけた。


「何で知ってるの?・・・そうだよ!私は、オヤジに褒められたくてラリーを始めた。でも、もう褒めてくれるオヤジがいない。何のためにやる必要があるか教えてよ?」


 瑠衣るいは言葉を詰まらせ言い返せなかった。そして、チャイムと同時に教室の扉を担任の先生が開いた。そして、教壇に立ち手を叩いた。


「ほらほら、どうしたの?みんな暗い顔しちゃって!授業始めるわよ!」


 真希音まきね瑠衣るいを睨むのをやめて、担任の先生の所に向かった。


「先生、体調悪いので帰ります。」

「あら、大丈夫?保健室で様子を見た方が良いんじゃない?」

「結構です。帰ります」


 真希音まきね瑠衣るいの顔を一度も見ることなく、自分のカバンを持って教室の扉を強く開けた。そして、閉めることなく出て行ってしまった。瑠衣るいはやってしまった気持ちと謝りたい気持ちがごっちゃになった。放課後、落ち込んでいる瑠衣るいの姿を見て、親友の英玲奈えれなが声を掛けてきた。


「ねぇ~、一緒に謝りに行こ~?」

「えっ、一緒に?でも、真希音まきねがどこにいるか分からないし・・・」


 瑠衣るいの返答に笑顔で英玲奈えれなは答えた


「私、どこにいるか知ってるよ~」

「えっ?どういう事?」

「ふふふ、それは付いて来てからのお楽しみです~」


 英玲奈えれなは、何かを知っているような言い方で瑠衣るいを戸惑わせた。そして、一緒にバスに乗り込み30分ほどで英玲奈えれなは降車ボタンを押した。連れて行かれた場所は自動車工場だった。その光景を見て瑠衣るい英玲奈えれなに尋ねた。


「ここって何?」

「ここは私の自宅兼工場です~」

「いや、それが一体何の関係があるよ・・・」


 看板には大きくと書いてあった。工場の中を見てみると、真希音まきねの白い車が止まっていた。瑠衣るい英玲奈えれなに話し掛けようとした時、後ろから音が聞こえた。瑠衣るいは振り返ると、大量のお菓子の袋を持った真希音まきねがいたのだった。瑠衣るいと目が合った瞬間に真希音まきね英玲奈えれなに詰め寄った。


「おい、お前なんでこいつを連れてきた。」

「とりあえず、中に入ろ~」


 英玲奈えれなは怒っている真希音まきねを無視して工場の中を案内した。工場の中では、金属の音や機械の音が大きく鳴り響いていた。

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