第2話 誤解


「何してんだ!朝の恨みか!ヤリスに少しでも触ったらお前を殺す。」


 真希音まきねの言葉に瑠衣るいは一瞬言葉に詰まったが、大きく首を横に振りながら早口で否定をした。


「ちっちがう、ちがうー。車に知ってるお店が書いてあったから見てただけでなの!!」


 真希音まきね瑠衣るいを睨みながら尋ねた。


「知っている店って?」


 瑠衣るいは精肉店の名前を指さしながら必死に伝えた。


「肉のハナマル!少し遠いんだけど、お肉が安いからたまに立ち寄るの!」


 真希音まきねは少し納得したようで、睨むのをやめた。そして、真希音まきねが恥ずかそうに何かを言おうとした時に、外の騒がしさに気付いた真希音まきねの母親が玄関を開けた。そして、瑠衣るいを見てすぐに何かを察したようで笑顔で話し掛けた。


「あら、真希音まきねのお友達?良かったわね!話すなら家の中で話なさいって!」


 慌てて瑠衣るい真希音まきねの母親に言った。


「いやいや、私はもう帰りますので失礼しました。」


 しかし、瑠衣るいの腕は真希音まきねの母親にがっちりと掴まれていたので、強引に家の中に連行された。


「何言ってんの!遠慮なんて要らないから気にしないで上がりなさいって!」


 真希音まきねはため息をつき、自分の部屋に向かってしまった。真希音まきねの母親に連れられ瑠衣るいはリビングに案内され椅子に座るように促された。真希音まきねの母親は、鼻歌を交じりながら温かいお茶を作り瑠衣るいに渡した。そして、真希音まきねの母親は瑠衣るいの隣の椅子に座り目をキラキラさせながら瑠衣るいに尋ねた。


「お名前はなんていうの?」

茂木もぎ 瑠衣るいって言います」

「へぇ~瑠衣るいちゃんね!瑠衣るいちゃんは車好きなの?」


 いきなりの質問に戸惑いながらも、当たり障りのない回答をした。


「車ですか?う~ん物凄く好きって訳ではないですが、好きか嫌いかなら好きですかね?」


 瑠衣るいの回答に少し驚きながら真希音まきねの母親は話した。


「あら、そうなの!真希音まきねはずっと車しか触って来なかったから、車関係でお友達になったのかと思っちゃった」


 真希音まきねの趣味が見た目から想像出来ないくらい意外だった。


真希音まきねさんって車好きなんですね!知らなかったです」


 真希音まきねの母親はさっきとは違いどこか暗そうに話した。


「うちの子ね。小さい時から車しか興味しかなくて、ずっと友達がいなかったのよそれなのに今は瑠衣るいちゃんが友達になってくれて、本当にお父さんのお陰ね!」


 目をうるうるさせながら喋る姿を見て瑠衣るい真希音まきねの母親に質問した。


「お父さんって?」


 お父さんのお陰の意味が気になったので聞こうとした時、背後から真希音まきねのイライラオーラが漂って来た。そして、少し大きい声で真希音まきねが話し掛けてきた。


「おい。私の部屋に来い!これ以上一緒に居てベラベラ話されちゃ困る」


 真希音まきねの母親はあとはお二人でごゆっくりと言わんばかりの顔で手を振っていた。瑠衣るい真希音まきねに無理やり服を引っ張られ、真希音まきねの部屋に連れていかれた。真希音まきねの部屋にはたくさんの賞状やトロフィーが飾ってあった。瑠衣るいは興味津々に部屋を見ていった。


「うわ、いっぱいの賞があるね。なんの賞?」

「ほとんど、レースの賞」


 自慢することなく、冷静に答える真希音まきねの姿が凄く格好良く見えた。すると、見えずらい所に写真があった。よく見てみると、白い車と一緒に今まで見たことのない笑顔の真希音まきねの写真が飾ってあった。


「あっ、さっきの車だ!あの車レースの車なんだ!」

「一応ね。でも去年の夏から出てないよ。もう、出るつもりないし」


 真希音まきねはどこか寂しそうに話した。そんな姿を見て話しの話題を変えようと辺りを見回すと、時計が目に入った。そして、家に帰る事を瑠衣るいは思い出した。


「あっ、そうだ!家の用事があるから早く帰らないと行けないんだった。」


 真希音まきねに謝りつつ、大急ぎで玄関に向かい、リビングにいる真希音まきねの母親にお礼をして帰るつもりだった。


「すみません!!家の用事を思い出したので今日は失礼します。また、時間がある時に遊びに行きます。」

「あら、そうなのね。悲しいわ。」


 悲しそうな顔をする真希音まきねの母親を見て申し訳なくなった。そして、真希音まきねの母親は閃いたように話した。


「あっ!それなら、家の車で送ってあげるわよ」

「いや、そんな真希音まきねさんのお母さんに申し訳ないですって」


 申し訳ないと思いすかさず断ると、車のカギを持って来た真希音まきねの姿があった。


「うちの母さんは免許持ってないよ!だから、私が送るから近くになったら道案内して」


 瑠衣るいは驚きながら、真希音まきねに尋ねた。


「えっ!車の免許持ってるの?」

「車の免許は18歳からだぞ!持ってるに決まってるだろ」


 真希音まきねは靴を履きながら話した。そして、靴を履き終えると玄関を開けた。


「ほら、急ぎの用事なんだろ?行くぞ!」


 瑠衣るいは驚きを隠せないまま、真希音まきねに遅れを取らないように急いで靴を履き外に出た。

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