第7話 メイドが懐いてくる
雨だ。
ヒルドは、3年に一度雨季が訪れる。
この間に草木は成長し、森が大きくなる。
町は修復は終わり、すっかり平和を取り戻していた。
私は屋敷で暮らしす異世界生活をそこそこ楽しんでる。
ひとつ報告したいことがある。
何故か物静かでクールなメイドが私に甘えてくる。
「膝の上で休憩してるだけよ」
私はベンチかっ!
「メイドの仕事も結構大変なの。最近はお世話をする人がひとり増えて、お洗濯物だけでも大変なのに。お客人は料理の好みまでいちいちうるさいのですよね。それにしても、今日も雨ですね」
と、私の膝の上で、世間話をするメイドのアズ。
いやこれ、半分苦情だろ。
「私の頭を、なでなでさせてあげてもいいわよ」
……少しツンデレなのか?
最近は何をしていてもこの調子で、猫みたいについてくる。
可愛いと言えば、そうなのだけど。
「あっちいけ」
追い払う素振り。
「サラ様から、シイナ様のお世話役を命じられているので、お構いなく」
相変わらずのクールな口調で、私の膝の上で体育座りをするように体を丸めて、ゴロンと横になる。
やっぱり猫だな。
そっか……。
アズも雨で退屈なのかもしれないな。
静かに頭をなでてみた。
「ここが落ち着くのですよ。この前の事件で大切な人を一度に奪われました。私の心が回復するのは少し時間必要なのですよ」
と、小さなアズの声。
私は黙ってアズの頭をなで続けた。
これだけで1日が過ぎる日があるのだから、私はこの屋敷暮らしを楽しんでいると思う。
ところで、屋敷の中央階段には、一枚の大きな絵が飾られていた。
「なぁこの絵に描かれているの誰?」
サラに尋ねた。
「何を隠そう、子供の頃の私よ」
――やけに自慢げだな。
「私も、絵を描いてみようかなぁ」
つい心の声が漏れた。
「雨だし、お家の趣味を持つって大事だと思う。でも、画材がヒルドでは手に入らないの。帝都だとなんとか。でも、……高級品なのよ」
「シイナ様はわがままですね。困りましたわ」
と、アズがひょいっと顔を出した。
「でもシイナが欲しいなら、高価だけどすぐに取り寄せるわ。お金なら心配しないで」
「……いや!」
ご飯が勝手に出てくる生活で体が鈍っているところだった。
「画材分と食費分くらいは、きちんと支払いさせて欲しい」
「いや、それ以上に過去にもらってるし」
「その分は忘れて欲しい。過去は過去。これからの分はきちんと、支払うよ。そうと決まれば、ちょっと森で魔法石取ってくる!」
「雨なのに……森に?」
サラが眉をひそめる。
アズはため息をついている。
「はい、雨に負けずに、魔法石稼いでこうと思います!」
「止めはしないけれど、モンスターも雨だといないんじゃ?」
「あっそうだった……。じゃ池に行ってくるよ。確か西に行けば大きな池があったよね?」
「西にある大池と言えば、カミツキ亀のモンスターがいることで有名よ」
「カミツキ亀?」
「知らないの? 石でも、鉄でも、とにかく視界に入ったものに噛み付く凶暴な亀よ。でも、カミツキ亀なら画材を買う資金には充分ね!」
「そっか! それなら、カミツキ亀を退治しに行ってくるよ!」
「シイナったら一度言い出したら聞かなそう。分かったわ。風邪を引かないようにだけはしてね!」
「心配ご無用。全然問題ありません!」
「このお屋敷にはわがままな方が2人もいらっしゃるようで、私くしも大変ですわ」
とかなんとか言いながら支度をささっと整えてくれるアズは、どこか嬉しそうだった。
カミツキ亀のいる西の大池を目指して、サラとアズに見送られ、私は出発した。
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