第2話 分岐点.1


色々と見て回ったが、僕達は金魚すくいの屋台で足をとめていた。

ビニールでできた大きな水槽で、大小様々な金魚が泳いでいる。


自由奔放に水の中を舞う魚達を、舞葉は感慨深そうに眺めていた。


「どうしたの。金魚すくいやりたい?」


僕は彼女に問いかける。


「うーん…無理無理。私、相変わらず不器用だから。きっと一匹もとれないもん」


少し考えた舞葉は、残念そうに答えた。


「…景太君がやってるところを見たいな!」


「そっか。舞葉がそう言うなら」


期待の眼差しを、舞葉は僕に向ける。

そんな顔をされたら、男として挑戦しないわけにはいかなかった。


「一回お願いします」


そう言って店のおじさんにお金を払う。

渡されたすくい網を片手に、僕は水槽の前で臨戦態勢をとった。


「頑張れ景太君!」


舞葉の応援を背に、僕はすくい網を水にくぐらせる。

実を言うと、僕は手先の器用さには自信があった。

通っている大学でも、その器用さは結構有名だ。


僕が勢いよく、次々と金魚を器の中にすくっていくと、そばで見ていた人々からは歓声がわき上がった。


舞葉も興奮して喜んでいる。


「わー! すごい、すごーい!」


手を叩く彼女とは逆に、店主は面白くなさそうな顔をしていた。

それでも構わず、僕は金魚をすくい続ける。


その様を後ろで見ていた舞葉が、僕に問いかけてきた。


「ねえ覚えてる? 小学生くらいの頃。今みたいに景太君がいっぱい金魚を取ってくれた事があったよね」


「ああ、確かにあったね」


僕はその問いかけを聞いて、昔の出来事を思い返す。

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