第3話 消えてゆく感情
今日は運がいいことに客の入りが少なかった。客のために作り笑顔を作り、愛想を振りまくのは、俺の精神を少しずつ削っていく。初めは、コンビニのバイトなんて楽勝だと思っていたが、見当違いも甚だしかった。仕事の内容の多さの割には、時給は安く、変な客の相手もしなければならない。おまけに職場には、清水のようなクソみたいな人間が他にも少なからずいる。
日ごと、仕事への不満が募る一方だったが、ミハルが紹介してくれたからなんとなく文句も言いにくかった。実際のところ今は、次のバイト先をいろいろと探しているところだ。良いバイトが見つかったら早々にここをやめるつもりだ。次こそは自分にあった職に巡り合えないものかと考えながら仕事をしていると、時計を見ると仕事の時間は残り5分になっていた。私はもう少しで家に帰れると思い少し気分がよくなっていたが、50代位のみすぼらしい格好の男の客が入って来た。男はすぐにレジに向かってきた。
「キャスターを1つくれ」
俺はまだタバコの銘柄を覚えきれてない。というか、面倒くさくて覚えていないのが正直なところだ。
「すみません。番号を仰っていただけますか」
「120番だよ!」
男は乱暴な口調で言った。
「(なんだよこのオヤジ。態度でけえなぁ。普通にしゃべれねぇのかよ)」
急いで120番のタバコを手に取って、崩れかけた作り笑顔を整え直した。
「こちらでございますね。425円になります。あっ、年齢確認のボタンの方をお願いします」
男は何が気に入らなかったのか、さっきよりも強い口調で、俺に噛み付いてきた。
「お前、俺が未成年に見えるのか。なんで押さなきゃいけないんだよ、面倒くせえ!」
「一応、そういう決まりになっておりますので」
「チッ」
男は舌打ちをして、小銭を乱暴に置き、煙草を持って店から出いった。
「ありがとうございました~」
若干無気力になりながら、客が出ていくときの定型文をけだるげに唱えた。
「(あぁ~この仕事早く辞めてぇ~)」
ようやく勤務時間が終わり控室に戻ろうとすると、外でゴミの整理をしていた清水がやってきた。
「おい、今客がなんか文句言ってたようだが、何かやったのか?」
「いえ、別に」
「普通に対応してたら、客が怒鳴るなんてことないだろ。ああ?」
「ただ俺は、年齢確認ボタンを押してくださいって言っただけです」
「どうせ、いい加減な接客してるからこうなったんだろ。いちいち世話焼かすなよな!」
「はい、すみません」
俺はそそくさと控室に向かった。
「チッ、使えねーやつだな、まったく」
清水の捨て台詞は毎度のことだが、やはり気にしないようにしても腹が立つ。控室には次のシフトの細谷が来ていた。
「あ、笹原さん、お疲れっす」
「おう、お疲れ」
一応、挨拶だけ交わすと、すぐに細谷はレジへ向かった。一人だけの控室にはなんとも言えない空気が流れていた。全身に疲労感をまといながら、帰り支度をして、バイト先を出た。外は小雨がぱらついていた。
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