第15話 Hello,guys.

四人の視線がキリカちゃんに集まる。


時間前にそろっていた四人をグルリと見まわして、何かを察したキリカちゃんは、ドアをゆっくりと閉めて、ロックをかけた。


「言いたいことは分かるわよ」


ドアから私たちへと、視線を流した彼女はその場に立ったまま話し始めた。


「今日集まってもらったのは、バンド名の発表と、メンバーについて提案があるからよ」


「あのさ、」


「なにかしら、一蕗」


「そいつから若干聞いてる」


「具体的には?」


「そいつが四人目のメンバーになること」


「そう、なら、改めて私から説明させてちょうだい。

……永良の言い方だと、誤解を招いていそうだから」


「失礼な」


「永良、こっちに来てちょうだい」


キリカちゃんの手招きに応じて、顔から表情全般が抜け落ちた彼女が、気怠げに椅子から立ち上がった。


僕自身、先週の一件以来、気になっていた。


登場が奇抜だったことも、社長とかなり親密な関係にあることも。


その答えが、今分かるのだろう。


「この子は、翡翠川永良(みどりかわながら)。

鳩の森学園中等部普通科の三年生で、うちの所属よ。

業界では、Heathとして名を知られているわ」


無造作に切りそろえられた短い髪と、少しばかりの襟足。

髪の色は一般的な黒とは違い、鳶色をしていた。

目は一重のような、奥二重のような。光彩もまた、茶色というよりは色素が抜けている。

とにかく表情という表情が抜け落ちている、不思議な子。

前回会ったときしていた、ゴミ同然のウィッグは今はつけていない。

目鼻立ちがかなりはっきりしていて、彼女もまた自分と同じハーフなのではないかと思う。


って、


「えええええええええええええええええええええええええええええ!!!」


「っんだよ、うっせーな」


「わーお、耳がキーンってした」


「飛鳥?一蕗?」


「なんだ」「なーに?」


「え、知ってたの?!?」


「俺は何となく」「僕知らなーい」


「じゃあ教えてよお」


「きったねーな唾飛ばすんじゃねーよ」


「え、え、え?」


ここで、彼女の方をもう一度見た。


え、


「あのー」


「やっと戻ってきたわね。それで?何かしらモモ?」


「本当の本当にHeathさんですか?」


「そうよ」


ちょっと感激。

自分と同じ事務所に所属しているとは聞いていたけど。

本当にいるとは。


あまりの衝撃に目を見開いた状態でフリーズしてしまった。


………。


一拍二拍と静寂が長引く中、一蕗が何か言おうと口を開きかけた瞬間、永良ちゃんがまたベースの方に歩いて行って、アンプにコードが繋がれた状態のベースを引き抜いた。


指してあったピックを抜いて、和音を鳴らし始める。


表情は相変わらずだけど、纏う空気が一気に締まった気がした。


業界に長いこといると分かる。

格の違い。


調律の段階で僕たちを黙らせた彼女は、「Ad/」のニューシングルを即興で弾いて見せた。


発売されて間もない曲を、楽譜なしで。

完璧を超えたクオリティで。


心臓、鼓膜、表皮、全てを震わせてくる音の重厚さ。

ここまで感情が乗ったベースは初めてかもしれない。



このとき、僕は何となく思った。


「彼女は、言葉以上に音で自分を表現する子なんだな」、と。






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