第19話 孫王の君姉妹の父の噂、そして弾き合わせが始まる
そんなところに、仲忠から
正頼からは梨、柑子、橘、荒巻などが。
所々からそれぞれ良いものが運ばれてくる。
女一宮のもとには妹の孫王の君、中納言の君、藤壷のもとには姉の孫王の君と兵衛が居た。
その孫王の君達が集まってお喋りをする。
まずは大君から、
「父上(上野宮)は、どうしてまたあの様な下々の娘を妻にしていて疑わないのかしら」
すると中の君が、
「この間あっちから来た人に聞いてみたのよ。『東宮に宮仕えしている方があて宮、九の君なのですが』と言ったんですって。そしたら父上、そのひとを捕らえてしまってずいぶん叩いた上に、しばらく閉じ込めてしまったんですって。それからはそのことを口にすることはないんですってよ」
「何なんでしょうねえ。人聞きも良くないわ。うちの大殿、正頼様が父上のこんなことを聞いたらと思うと、顔から火が出そう」
「そんなこと知られてみなさいよ、お笑いぐさよ。その上、わたし達のきょうだい達に『私の様になりたいだろう?』と言ってるそうよ」
二人してため息をつかざるを得ない。彼女達は既に父親からは離れた身だが、さすがにこの様なことを聞くのはなかなか辛いことがある。
姉の孫王の君は、仲忠から「それはそれでそう見せていて何か考えがあるのかもしれないんじゃないの」とは言われているが、外聞というものは、なかなか彼女には耐えがたいものがあるのだ。
小さな頃ならともかく、今となっては。
すると藤壷が口を挟んできた。
「どうしたの。どんなお喋り? 孫王の中の君、姉君がこっちに居るんですもの、宮のお供でなくとも度々いらっしゃい」
「ありがとうございます。なかなか上手く時が合わず。今日は宮様がいらっしゃるということで、私もこうして姉に会うことができました。ところで、先日は御方のことで、うちの殿がちょっと大騒ぎをなさいまして」
「仲忠どのが?」
「御方が差し上げになった文を、私がいながら取り次ぎをしてくれない、とお拗ねになりまして。何で下仕えなんかに、とか。『君が居るのに何してんの。こっちで仕事をしているのに、これは怠慢だよ』とか、普段は物事にそうそうこだわらない方がお怒りになったので、珍しくも困ったものでしたわ」
「それはまた」
「御方のお文をご覧になると、『この御文、これほどのお宝は無いね。これからこの様にして御文を貰えることなんて無いと思うけど』とか仰有って、人に触れさせない御厨子の中にしまってしまったと聞きますわ。何というか、私はずいぶん決まりの悪い思いをしましたの」
「そなたの姉君のもとに置いてあるお手本を、あの方が面倒だと思わずに書いて下さったので、その好意に対する喜びを書いただけなのですがね。私こそ心ないことをしました。わざわざ下さった方に何もお便りをしないのも何だと思ったのですが……」
などと言っているうちに日が暮れてきた。
宰相中将の祐純はこの夜は同じ番の者と共にやってきた。蔵人の少将である近純は女二宮がやってきているということで、わざわざやってきて、台盤所で客人達の御膳部の手伝いをしている。
そんな中、藤壷達は夜になってきて。
「ずいぶん久しい間しなかった管弦の遊びを今夜は致しましょう」
と女一宮に言い出した。
「貴女はいつもなさっているのでしょう?」
「そんなこと。まるでしませんのよ。でも今日は致しましょう。だってあのひとは、私が少しでも琴を鳴らしたりすると、『うーん…… 何というか…… ちょっと…… ねえ……』と笑って散々なんですよ。だからあのひとの前では琴なん見向きもしません。なので今日は、あのひとに知られない様にこっそり演奏しましょう」
と言って、琴の琴などを取り出す。
かたち風を藤壷、山守風は一宮、箏の琴は二宮、琵琶は他の姫宮、それに和琴は一宮のところの孫王の君が担当することになった。
それぞれの前に置いて、まず藤壷と女一宮は琴の琴を調べ合わせながら弾き始める。
「貴女の弾き方や手筋は確かにあのひとのそれと良く似ているのね」
「え、どうしてそんなことがあるのかしら? あの方の琴は本当にまるで聞いたことがないのに」
「何でかしら。近くで聞いたことがある訳ではないのに。あの私が犬宮を産んだ時の音じゃなくて? 私にはそれすら聞かせてくれないのに」
「ああごめんなさい。変なことを言ってしまったわ。絶対にあの方には仰有らないでね」
などと言いながら弾き合わせをする。
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