第16話 伝えた結人

「ラブくんはさぁ、愛の神様に気持ちを伝えないの?」

「えっ!」


 あのとき、一緒に部屋を出たイユとラブ。これを機に、ずっと気になっていたことをイユはラブに聞いてみた。


「ぼ、僕がっ……愛の神様に?」

「うん。だってラブくんは、愛の神様のことが好きなんでしょ? 分かっているよ、あたし! ビスムもね!」

「えっ……そのぉ……僕は……」


 動揺し始めたラブを見て、イユはニコニコしている。すると、もじもじしているラブの背中をポンッと軽く叩き、イユは言った。


「ずっと好きだったんだから、しばらく会えないのは相当きついよ? いつ帰ってくるか、まだ分からないじゃん。これはもう、はっきり伝えるべきじゃないかなぁ? まあ、あたしの考えだけどね!」

「っ……!」


 イユの助言を聞き、ラブはハッとした。 

 いつ帰ってくるか、分からない。

 しばらく会えないかもしれない。

 淋しい予想が、ラブの頭の中に浮かび上がってきた。

 ずっと隣で見ていた、大切な人と離ればなれに……。




「愛の神様、どうか行かないでください!」

「な、何だっ?」


 突然のラブからの懇願に、アイジンは驚かされた。ビスムがアイジンとのマンツーマンの会話を終えたのを確認すると、すぐにラブはアイジンの元に向かったのだ。


「そ、それか……僕も人間界へ、連れていってください!」

「ラブ……」


 ああ、そういうことか。

 アイジンはラブの二言目を聞いて、一瞬下を向いた。しかしラブに対する、アイジンの返事は……。


「悪いが、どちらともダメだ」

「そ、そうですか……やはり……」


 予想通りの返答だ、とは思っていたラブ。アイジンの決意は、そう簡単に揺るがない。それを分かっていたラブであったが、しっかりショックは受けている。


「……淋しいのは、お互い様だよラブ」

「えっ?」


 そのときアイジンは、自分より低い位置にあるラブの頭を撫でた。これは予想外だ。俯いていたラブの顔は熱くなり、すっかり真っ赤に染まっている。


「私も、君と離れたくない。だが私は、しばらく単身で頑張りたい。じっくり自分を見つめ直したいのだよ」

「愛の神様……」


 自分の気持ちも大事だが、愛する者の気持ちも大事である。アイジンもラブも、お互いにそれを分かっている。それだからこそ今、彼らはつらい思いと戦っているのだ。


「ラブよ、まだ私に伝えたいことが……最も私に伝えておきたいことが、あるのではないか?」

「愛の神様……」

「いや、もう良い」

「……アイジン様ぁっ……!」


 愛している者を、本当の名前で呼ぶことができる喜び。その幸福を感じながら、ラブは熱くて赤い顔でボロボロと、きれいな温かい涙を流している。


「うっ……ううっ……!」


 今の自分の顔が、みっともないものであることをラブは知らないわけではない。だが顔を見せたくないという思い以上に、いやそれよりもラブは顔を上げたかったのだ。それは、


「アイジン様! ぼくはアイジン様が好きです! ずっとずっと好きでした!」


 好きな者に「好き」と、きちんと顔を見て、はっきりと自分の口で伝えたかったからである。


「……ありがとう……」


 ラブの気持ちを聞いた直後、アイジンの目から静かに涙が流れた。


「そして今まで……本当に、すまなかった……!」


 これまで直接的に傷付けてしまっていたことを、アイジンはラブに謝罪した。アイジンは強く優しく、ラブを抱き締めていた。




「じゃあラブくんは、きちんと愛の神様に気持ちを伝えたんだね」

「はい。イユさんのおかげです。ありがとうございました」

「何を言ってんのよー。頑張ったのは、ラブくん自身でしょー?」


 アイジンが旅立った後、ラブはイユにお礼を言った。愛する者と離ればなれになっているが、今のラブは比較的明るい。


「君の気持ちに対する返事は、私がここに帰ってきてからさせてくれ。私が君にふさわしい結人になってから……返事をさせて欲しい」


 アイジンからその言葉が、ラブを淋しくさせないのだ。

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