第12話 伝えない結人

「はい。ずっとイユが好きなのに……わたしは、いつまで経っても自分の気持ちをイユに伝えることができなくて……」

「ほう……。それは自分の気持ちを、愛するイユに否定されるのが怖いと感じていたからか?」

「……そうです」


 アイジンからの問いに、ビスムは静かに答える。


「……しかし今回の件で、君のような者をイユは否定しないということが明らかになったな」

「それにはホッとしました。でも……わたしは、まだイユに自分の気持ちを伝えるつもりはありません」

「……ん?」


 意外な返答だ、とアイジンは思った。


「なぜ?」

「わたしがイユを信じていなかったからです」


 すると、そのときビスムは泣き出した。し涙を流し始めたビスムを見ると、アイジンは戸惑った。しかし、


「わたしは」


 ビスムの言葉は止まらず続く。その様子を見たアイジンは、すぐに崩れた表情を整えた。


「わたしは……自分の思いをイユに伝えたら嫌われてしまうかも、と恐れていました。でも、それは……わたしがイユを信じられなかった弱さによって生まれてしまったものでした」


 まだ涙は止まらない。そしてビスムの話は続く。アイジンは黙って聞いている。


「それで、今回イユの考えを知ったところでホッとするなんて……。現金ですよね、わたし……」


 たくさん涙を流しながら語るビスムを、アイジンは温かく見守っている。


「だから……わたし、決めました。もっと強くなってから、イユに自分の気持ちを伝えようって」


 ビスムの声は決意に溢れていて、しっかりしていた。アイジンはビスムのイユに対する愛の強さを感じた。


「……分かった。話を聞かせてくれて、ありがとう。しかしビスム、まだここにいてくれ」

「え……」


 ビスムの目の周りに、何やらヒンヤリとした光が降りかかってきた。


「これは……?」

「少し待っていてくれ」

「はい」


 ビスムはアイジンからの指示に従い、数分間じっとしていた。




「……よし、もう大丈夫だ」


 ビスムについていた光が消えた。何かが終わった直後、ビスムはアイジンに聞いた。


「……今のは、何ですか?」

「ビスム……泣いて腫れてしまった君の目を、イユが見たら心配するだろう。君は大切なイユに、そんな思いをさせたくない。そうだろう? だから私は、君の目の状態を治した。……私が君を泣かせてしまったのだから、これくらいの責任は取らせてくれ」

「……ありがとうございました」

「では、愛する者の元へ行きなさい」

「……はい」


 ビスムは少し歩いて、部屋のドアに手を伸ばした。


「あ」

「ん、どうしたビスム?」

「わたしがイユに告白しない理由、もう一つありました」

「ほう……何だ?」


 不思議そうにするアイジンを見て、ビスムは笑って答えた。


「実は……片想いの恋愛も、なかなか楽しいんですよね」


 ビスムは微笑みながら退室した。何だか幸せそうな彼女が去ると、アイジンが呟いた。


「……愛の形は、様々なのだな」


 ビスムを見てアイジンは改めて、自分を未熟者だと感じた。しかし彼は笑っている。自分の知らない愛を知ることが、ますます楽しみになってきたのだ。

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