第9話 笑い合う結人
「バイバーイ! お姉ちゃんたちっ……本当に、ありがとう!」
「気を付けてねー」
「さようなら~」
イユとビスムは、少年と別れた。彼は二人と出会ったときとは違って、清々しく明るい笑顔で手を降っていた。
そして彼女たちは再び、二人きりで歩いている。
「……ねぇ、ビスム……」
「何、イユ」
「ビスムのハンカチ、あの子にあげて良かったの?」
「うん」
「あれ、ビスムが気に入っていたハンカチだったのに……」
「良いのよ」
「……まあ、そうだよねぇ~。あんな涙と鼻水だらけになっちゃったハンカチなんて、もういらなくなっちゃったよねぇ~」
「あらイユ……わたし、そんなつもりで彼にハンカチをあげたわけじゃないわ」
「え?」
……あー……。
あたし、またやっちゃったかも。
イユは心の中で、後悔の言葉を呟いた。すると、あの少年に出会ったときの彼への接し方を、一気に思い出した。
あたしって案外、性格悪いのかな……。
いや悪いんだ、うん。
「イユ……わたしはね、お守りのつもりで自分のハンカチを男の子にあげたのよ」
「お守り?」
イユが自責の念を抱いているのを知らず、ビスムは説明をした。イユもパッと気持ちを切り替え、ビスムの話を聞く。
「そうよ。わたしたちが、いつまでも彼を見守っている……という思いを、あのハンカチに込めたの」
「そうだったのか……」
これで何度目になるのだろう。イユはビスムの優しさを素晴らしいと感じていた。
「あたしは心の優しいビスムが親友で、すごい幸せ者だよ」
「イユ……ありがとう」
お礼を言ったビスムの足が止まる。
「……ビスム?」
「ねぇ、イユ」
「何?」
イユも親友に合わせて歩みを止めた。
「イユは誰かに愛されること、好き?」
「は? 好きに決まってるじゃんよ」
「女の子から愛されるのも?」
「もちろん!」
「その女の子が……イユに対して恋愛感情を抱いていたとしても?」
「嬉しいよ」
「本当?」
「あたしがビスムに嘘をついたことって、あった?」
イユの返事にハッとしたビスム。
「……アハハハハ!」
「え! あたしの言葉、おもしろかった?」
「だってイユ……さっき、わたしがイユに言ったことと同じことを言ってきたから……」
「あ……」
イユもハッとした。そして笑った。
「やっぱり、わたしイユが好き」
「へへ、ありがと」
「イユさ~ん、ビスムさ~ん」
イユとビスムが笑い合っていると、二人を呼ぶ声が聞こえてきた。彼女たちは振り返った先にいたのは……。
「あれ、ラブくん!」
ラブが彼女たちの元へ駆け寄ってきた。
「ラブくん、どうしたの?」
「何があったの?」
「アイジ……いや愛の神様が、お呼びです。元の世界へと戻りましょう」
「……割と早かったね」
「愛の神様、優しいのよ」
「それでは行きましょう!」
「はーい」
ラブは結人としての能力を使い、二人を連れて元の世界を目指した。
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