第8話 応援する結人
「えっ!」
ここで、イユとビスムの、二つの声が重なった。今の自分たちにとってタイムリーな話題に、彼女たちは驚きを隠せなかったのである。
ちなみにイユとビスムは、いつもならば言葉が揃った直後に「ハッピーアイスクリーム!」を忘れずに唱える。しかし今回は、そんな余裕が全然なかった。
「お姉ちゃんたち、どうしたの……?」
「あ、いや! 何でもないよ?」
「そうそう! ごめんね。あなたは何も気にしないで!」
二人が慌てると、少年は悲しそうに下を向いてしまった。
「……やっぱり、ぼくって変な人間なんだね……」
「はっ? 何を言っているの、君! そんなわけないでしょっ!」
つい感情的に叫んでしまったイユ。彼女が大きな声を出した瞬間、少年はビクッと体を震わせ、また顔を上げた。
「何が変なのよ! 君は全然おかしくないからねっ!」
「イユ、もう少し大人しくなって……!」
「あっ……」
ビスムに注意されて、イユはハッとした。思わず熱くなってしまった。
立ち上がって叫ぶなんて……。
イユは少し恥ずかしくなった。そして、その場に自分たち三人以外の他に、誰もいないことに安心した。
「えーっと……。驚かせて、ごめんなさい。あたし君のことを、怒っているわけではないんだ……」
イユは腰を下ろしながら少年に謝った。少年は、こくりと静かに頷いた。
「とにかくっ! 君は変じゃないよ」
「本当?」
「うんっ」
「おかしくない?」
「じゃあ逆に、あたしが君に聞くね。何で自分のこと、おかしいって言うの?」
「だって……ぼく男の子なのに、女の子ではなくて、男の子を好きになっちゃうなんて……」
「確かに珍しいケースと思われちゃうかもしれないけど……おかしなことでも、いけないことでもないよ」
少年は今、イユの目をじっと見て彼女の話を聞いている。
「誰かが誰かを愛するってね、素晴らしいことなんだよ。決して悪いことではない。君は、たまたま男の子を好きになった。それだけの話。おかしくない」
「ぼくは、おかしくない……」
少年は、ほんの少し心が軽くなった様子。イユは続ける。そして、ビスムは二人を温かく見守っている。
「人を愛するのは、本当にステキなことだと思う。好きな人のことを考えるだけで、明るい気持ちになれる。幸せになれる。その人のために自分がしてあげられることを、一生懸命に考えて頑張る。それを誰かがする度に、笑顔が増える。あたしは楽しいよ。そんな風に幸せに包まれた世界を見ていることが。ううん、あたしだけじゃなくて、多くの人がそうだと思う。誰かと誰かが愛し合う、そんな温かい世界を誰もが望んでいるんだ」
イユが語り終わると、少年は呟いた。
「……温かい世界……」
何かを考え始めている少年。その様子を見て、またイユは話し始めた。
「君もさ、その好きな子について考えていると楽しくならない?」
「うん、なる」
「よし。それなら、今度は君が好きな人を喜ばせる番。自分を変とかおかしいとか考えている時間があるなら、その時間は好きな人のために何ができるかを考えるのに使うべきだよ。あたしたち、君を応援するから。ね、ビスム!」
「ええ。もちろんよ」
少年と同じく、これまで真剣にイユの話を聞いていたビスム。彼女の親友への返事は、柔らかくて頼もしいものだった。
「お姉ちゃんたち、ありがとう!」
お礼を言う少年。とても元気な声だった。その声を聞いて、イユとビスムも嬉しくなった。
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