第5話 宥める結人

「そうだったんだ……」

「うん、そうだったの」


 イユは自分自身に起こったことについて、ビスムから教えてもらった。これまでビスムの話を大人しく聞いていたイユであったが……。


「でもさ、でもさ」

「ん?」

「何も結人としての能力を奪うことないじゃん!」


 やはりイユの中で、自分を攻撃してきたアイジンに対する怒りの炎は残っていた。まだまだメラメラと燃え続けているようである。


「……あのね、イユ……」

「何っ!」


 ビスムへのイユの返事は大きい。イユに「落ち着いて」と言おうとしたビスムであったが、それはやめておいた。とりあえずビスムは、イライラしているイユとの会話を続ける。


「愛の神様は奪ったのではなくて、預かっているのよ」

「あたしからしてみれば、力を奪ったようにしか思えない!」

「イユ……」


 憎しみを露にするイユを見ている、そんなビスムの声は弱々しい。


「絶対に嫌がらせだよ! あいつ……性格すっごく悪いじゃんっ!」

「そんなことないって」

「大体、頭を冷やせって何なの? あたし何も悪いことしていない! あたしは自分が思っていることを、そのまま伝えただけじゃん! それに自分と意見が合わないからって……暴力なんて加えるのかな? 最低だよ、あいつ! あたしに痛い思いさせるなんてさ!」

「う~ん……でも……」

「何っ?」


 ビスムは荒れ続けるイユの目を、真っ直ぐ見ている。そしてビスムは言った。


「イユにも悪いところ、あるよ」

「え?」


 親友からの意外な言葉に、イユは目を丸くした。


「愛の神様が、あんなに嫌がっているのにアイジン様って呼ぶのとか。しかも連呼しちゃって……」

「うっ」


 ビスムからの指摘に、イユは何も言い返せない様子。ただただ苦しんでいる。


「愛の神様を敬わないところとか……」

「うぅっ……」


 ビスムから言葉が出てくる度に、イユは耳が痛くなった。ビスムの口調は優しいが、その威力はイユの心を突き刺せる強さなのだ。


「それにね、イユ」

「……?」

「愛の神様は、自分にも悪いところがあると仰っていたよ」

「えっ?」


 ビスムからの言葉にイユは驚いた。予想外の知らせである。

 あいつが、あたしに対して「悪い」と思うなんて信じられない……。


「本当に?」

「あら。わたしがイユに嘘をついたことって、あったかしら?」

「ないよっ! ない、ない!」


 イユは首をブンブンッ! と横に振った。はそして懸命に否定する親友を見た途端、ビスムはクスッと微笑んだ。


「だからね、イユ」

「うん」

「この世界で、きちんと反省しよう?」

「……うん」

「そして反省した後、愛の神様に謝ろう?」

「……うんっ!」

「それで良し!」


 ビスムは、イユの頭を優しく撫でた。イユは嬉しそうだった。


「……ビスム」

「なあに、イユ?」

「あたし……ビスムのこと、大好き。あたしに優しくしてくれるし、ちゃんと注意もしてくれるから」

「当然でしょ? わたしにとって、イユは大切な存在なのだから」

「ビスム、大好き」

「わたしもイユのこと、大好きよ」

「これからも……ずっとずっと親友でいてね!」

「……」

「……ビスム?」

「あ、うんっ! もちろんよ!」


 一瞬、下を向いたビスムがイユは気になった。だがビスムの返事を聞いて、すぐにイユは笑顔を浮かべた。

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