第2話 消えた結人

「指差すの、やめてくれません?」


 イユは、指を差しながら話すアイジンを睨んでいる。


「そんなこと、今は関係ないだろう!」

「あたし~、指差しながら話す奴ってぇ……嫌いなんですよね~。いかにも偉そうでぇー」

「イユ……!」


 イユのアイジンへの振る舞いを見て、ビスムは戸惑っている。親友であっても、その無礼な態度は見過ごせないようだ。

 しかしイユは親友の顔を見ても、


「だってビスムも、ムカつかない?」


 何も変わらなかった。そして平気な顔でイユは語り続ける。


「あーんなにも偉そうにされてさぁ……。いくら上司だからって、やって良いことと悪いことくらい分かるでしょ?」

「ちょっ、イユさん!」

「ラブくんも! こんな偉そうなのと、一緒にいるのやめたら? 苦しくない?」

「おい! 私の話を、真面目に聞け!」


 アイジンは荒れている。


「あーもー嫌。分かりましたよ」


 イユは耳を塞ぐポーズをしながら、ため息をついた。アイジンは「この性格ブスの、屁理屈小娘がっ!」と心の中で叫んだ後、再びイユに質問した。


「……イユよ、なぜ戸川さんと平野さんを結んだ? 戸川さんの近くには、相性の良い女性がいただろう」

「逆に聞きます。なぜ男性同士のカップルを成立させただけで、疑問が生じるのでしょうか?」

「はぁ……」


 アイジンは口が減らない結人を睨んで、ため息をついた。


「イユ、普通ならカップルとは男性一人と女性一人の二人組のはずだ……」


 今、アイジンは落ち着いた話し方を心がけている。


「それは、どういう意味ですかぁ?」


 わざとらしくイユがアイジンに聞く。


「そのままの意味だ。基本的にカップルというものは、一人の男性と一人の女という二人組なのだ。男性二人組や女性二人組で成立するのは何か違う。戸川さんは、近くにいる相性の良い女性と結ぶべきだった」

「何かって何なのです?」


 イユは続ける。


「別に良いじゃないですか。誰が誰を好きになったって。なぜ男性と女性が愛し合うことは良くて、同性同士だといけないことってなるのですか? 確かに、人によっては特殊なケースかもしれませんよ? それでも違うというのは、一体どういうことですか? そのようなことを違うって決め付ける方が、違うと思います」


 イユは、じっとアイジンを見つめながら自分の意見を述べた。そのときのイユの目は真剣な眼差しであり、ビスムとラブは驚いていた。アイジンをバカにしたような態度で振る舞っていた彼女は、どこへ行ってしまったのだろう。そんなことを二人は考えていた。

 特にビスムは、そんな親友の姿に釘付けになっていた。


「好きになったのが、たまたま同性だっただけですよ? なぜ、それだけでダメになるのですか? そんなのおかしい。愛することは決して悪いことじゃないのに」


 そのとき、鋭い光線がイユに向かって放たれた。


「おっと!」


 しかし、イユは軽々とレーザー光線を避けた。アイジンはイユを睨んでいる。


「……口で勝てないから、とうとう手を出してしまいましたか~。お子ちゃまで、かんわいーですねっ♪ ア・イ・ノ・カ・ミ・サ・マ」

「うるさいっ!」


 攻撃されても、イユは動じることなくアイジンを小バカにし続けている。アイジンの怒りは増すばかりだ。


「愛の神様、落ち着いてくださいっ!」

「黙れラブ!」


 焦るラブの言葉も、今のアイジンには全く効かない。また、涼しい顔をしている親友を見守るビスムも、心が乱れていた。


「イユ……!」

「ビスム、そんな悲しい顔をする必要はないよ。あたし、全然大丈夫だかっ……」


 そして、とうとうイユの言葉が途切れた。イユの先には、ギラギラと光った手を彼女に向けているアイジンが立っていた。


「イユーッ!」

「イユさぁーんっ!」


 ビスムとラブは、アイジンの攻撃を受けてバタッと倒れたイユの元へと向かった。

 が、イユは二人が近づいている途中で、その場からフワッと消えてしまった。


「イユ?」

「イユさんっ……!」

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