night novel 夜に書いてるからエッセイ
@asgood18
第1話4月9日 傘の話
家に帰って好きなアイドルの動画を見た。至福の時間と言いたいところだけど、動画を見ながら「後、30分。後、30分。」
至福な時間は自分で決めた時間内で満足するからこそ訪れるものだと思う。伸ばして伸ばして過ごした後は、なんとも言えない感情が押し寄せてくる。
ごまかしに最後はニュースとか見ちゃったり。もちろん、お固めの。
そんなこんなで今日からラブストーリーを書いていこうと思う。ただいま、9時38分。
「傘の話」
今日は、朝から味噌ラーメンを食べた。理由は2つある。一つ目、食べたかったから。二つ目、私だけじゃないから。隣でメガネを曇らせながらラーメンをすすっているのが、私の友達、佐野である。
普通、一人暮らしの女子大生が朝からラーメンなんて食べないし、こってり味噌でわざわざ朝を迎えることになろうとは夢にも思わなかった。佐野は、いつのまにか麺を食べ終わってちびちびとレンゲでスープをすすっている。
佐野が家に来るとなんだか味噌ラーメンが食べたくなる。今日はたまたまそのタイミングが朝で、食べたくなって、お湯が沸いていて、麺を入れて、完成して、食べ終わってた。
ラーメンを食べている最中はずっと無言で食べ終わると、「お腹いっぱいだね」って言って笑っている。
「ねぇ、なんでこんな朝早くから来たの?」気になっていたので聞いてみる。
「傘忘れたから借りようと思って」佐野は頭をかきながら答える。
「ふーん、昼は軽めにしないとだな。」
「朝から味噌ラーメンはやっぱりきつい。なんで毎回僕が来ると味噌ラーメンなんだよ。」
ちょっと驚いてすぐに答えられない。「あなたが来ると、食べたくなるの。後、二人分がパックのやつ癖で買っちゃうんだよね。食べるときは二人じゃないと。」
「もう一方、ジップロックとかに入れて保存すればいいじゃん」
やっぱり、そう言うんだ。「癖で」ってところたまには感づいてよ。
「別に、私の勝手でしょ。早く帰って。」
好物は味噌ラーメンだと言って私に自己紹介した佐野はもういないのだ。私が好きだと言って手をつないでくれたあの人はもういないのだ。
一緒にこの家に住んで一緒にラーメンをすすってくれたのに。
「早く帰ってよ、着替えるんだから」泣きそうだから
「はいはい、帰りますよ。」そう言いながら、食器をキッチンに置いて彼は玄関に向かう。
「待って、傘忘れたんでしょ。持って行きなよ」
「あ、そうだった。じゃあこの綺麗な傘借りていこうかな」
傘立てに置いてあるライトブルーの傘を手にとって彼に渡す。「はい、明日必ず返してよね」
「分かってるよ。じゃあまた明日」手を振りながら、佐野は帰って行った。
どんなに晴れていても佐野は私に傘を借りにやってくる。今日みたいに朝だったり、うんと夜遅くなこともある。ほとんどなくしてしまった何かを、完全になくさないようにしているのかもしれない。佐野にとって私との明日は来ないし、傘を返すこともない。
今日はどんな傘を買って佐野を待とう。
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