第20話 ロリっ子紫音、ここに爆誕!
『ハロー、サイヤ。アイムシオン』
「グッバイ」
——ブツッ。
『ハr』
——ブツッ。
『なんで切るのさ』
「お前のエセイングリッシュ聞いてたら悪い英語の成績がさらに下がる」
『失敬な。これでも三はキープしてるんだよ』
「先生に媚び売ってな。で、なんだよ電話なんかしてきて」
『そうそう。明日暇? 暇だよね。じゃあアキバ行こうよ』
「勝手に暇認定ありがとう。行くなら朝からでいいか?」
『うん。じゃあ朝、彩也の家に行くよ』
「おう」
『それじゃあ、夜更かしして寝坊しないようにね』
「お前はおかんか……あ、ちょっと待て」
『なに?』
「お前さえいいなら、もう一人——」
九時五十分、いつもの最寄駅。
「おはよう彩也くん……と、」
十分前に着いていた久遠は、俺の隣に立つ人物を見て思いっきし眉根を寄せた。
「高津紫音でーす。お久しぶり」
ご存知の通り、久遠と紫音は面識がある。なんなら俺より長い。
にもかかわらず何故、紫音を紫音と判別し兼ねたのか?
はい。長い前置き以下略なので、ネタバレといこう。
さあさあ皆様、まずは紫音の服装にご注目いただきたい。
控えめなフリルの付いた、シンプルな仕上がりの黒と少しばかりの白を基調とした膝上までのワンピース。覗く細い素足から下の方に視線をずらしていただくと、厚底のブーツがご覧いただけると思います。そしてそして、頭にちょこんと乗った黒のベレー帽。カバンはご丁寧に可愛らしいポシェットであります。
つまり、
「頭、大丈夫なの……?」
久遠さんの言う、まったくその通りでございます。
こいつ、社会的に死にに行ってるようなもんだぞ。
「して、二度も説明するのは面倒だから、後で集合してから言うんだったな。それは一体なんのつもりだい紫音くん」
「実は昨日の夜、三人で出かけるってことを妹に話したんだよ。そしたら、『彩也さんの彼女さんが来るのに、男が入るなんてダメだよ! 修羅場だよ!』って言ってきたんだ。そこで、じゃあ女装すれば修羅場じゃなくなるね、っていう妹の案でこうなった」
いやどうなったらそうなるんだよ。
どんな思考回路だよ。相変わらず、お前の妹もなかなかぶっ飛んでいるやつだ。
いわゆるゴスロリ姿の紫音は微塵も恥じらいを見せることなく言ってのける。
正式名称をゴシック・アンド・ロリータというだけあって、背が低く全体的に幼い感じの紫音には、おかしいくらい似合っていた。こういう服知識だけあるんだよな俺。
「高津くんって、本当に男子なのよね?」
「うん。見て確認する?」
「あほか」
そしてワンピースをたくし上げようとすな。
「ところで彩也、ボクからも一つ聞きたいんだけど」
「おん?」
「アキバ行くのに、なんで西園さんを? まあなんとなく察しはつくけど」
「ああ、前に言った布教相手がまさし——ってぇ!? なにしやが——ぐべほっ!」
いきなりヒールの踵で足を踏んづけられては、胸ぐら掴まれて引っ張られた。
「貴方バカなの? 下手に話して契約のことがバレたらどうするつもり? まさか、私が貴方のオタク活動に付き合わされていることをバラしたんじゃないでしょうね?」
「落ち着け久遠ッ、ヘッドホン壊れ……てかおまっ、素が出てるぞ素が……っ」
「あっ」
自爆してどうすんだよ。もう毒舌高飛車お嬢様っていくつも属性付いてるんだから、そこにドジっ子属性まで追加しなくていいって。属性過多は逆効果だぞ。
ともかく、なんとかワイヤレスヘッドホンを守り抜けた。四万もしたノイキャン付きのワイヤレスヘッドホンだ、数回使っただけで壊されたらたまったもんじゃない。
「ええと、高津くん……これはその、」
「いいか紫音。これが西園久遠の本性だ。クラスじゃお優しいキャラ作ってるけど、根はただのわがままお嬢様だから気を付けろ」
「なっ、貴方いきなりなにを言いふらしているの!?」
「いやもう手遅れだろ。いっそバラしちまった方がいいって」
前に横浜で見かけているわけだし、紫音だったら理解も早い。
恐る恐るといった様子で久遠が紫音の方を振り向くと、それはもうにっこりと屈託のない笑みが待っていた。うわぁ怖い。
「大丈夫だよ西園さん、あとで彩也には色々聴かなきゃいけないことがたくさんあるけど、事情があるのは察したから」
「だそうだ。紫音はノリこそ軽いけど、信用はできるやつだから安心していいぞ」
「それはそれは、褒めてくれてありがとう。こんな上質なオタク仲間を隠していたなんて死刑に値するけど、九割殺しで許してあげる」
寛大な慈悲、感謝申します紫音様。
父さん母さん、それから姉貴。俺ちょっと逝ってくるわ。
「彩也のことだから、知ったからには協力しろとでも言うんでしょ?」
「さすがは幼馴染み。よく分かってらっしゃる」
「まあね。とりあえず、話は移動しながらしよっか」
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