第79話 事後処理
それからしばらくして、音羽坂高校に到着した。一応、姫路家の前は通らないルートを選んだ。
玄関で靴を履き替える。
それから、舞花と教室に向かおうか、という時だ。
「ねぇ」
是清の背中に声がかかった。
「ん? ああ、なんだ。かんじゃきか」
「柚莉愛?」
声の主は神崎柚莉愛。
「高坂、ちょっと話がある」
「神崎が? 俺に?」
それは珍しい。
「舞花様。申し訳ないのですが、彼をお借りしても?」
「え、ええ。お借りっていう言い方はあれですけど……。じゃあ、私は先に教室に行ってますよ」
そうして舞花がいなくなった。
「で、何だよ?」
「ありがと」
「は……? い、いきなりどうした? へ、変なもんでも、食ったきゃ?」
「舞花様を助けてくれて、ありがと。ここまで言わないと分からないわけ?」
「え……?」
何か今日は驚いてばかりだ。
「あ、ああ……そのことか。き、気にしなくて、いいぞ」
「そう」
「あ、そうだ、神崎」
「何?」
「宝仙にちゅいて聞いてもいいか?」
「うん。あたしもちょうどそれについて話そうとしてたとこ」
だったらちょうどいい。
「なら、聞いて、お、おきたいんだが、あれなのか? 俺がしてることって大丈夫なのか?」
「と言うと?」
「もしさ、宝仙が警察にでも行ったらさ、俺って大丈夫なの? だ、だってよ、状況が状況だったとはいえ、お、俺がしたことは、悪く言えば、誘拐ときゃになるんじゃないか?」
「まあ、その心配はしなくていいかな」
「な、何でだよ?」
「あたしは警察のこととか知らないから、もし宝仙様が警察に行ったらどうなるかは分からないよ? でも、たぶん宝仙様は行かない」
「しょうなのか?」
「たぶんだけどね。……仮に今までのことを問題にしたとしたら、アンタやアンタの家族に警察が行くのは間違いないよ」
是清は顔を青くした。
「それってやばい──」
「でもね、同時に宝仙様の今までの行動も明るみになる。そうしたら、あの人は色んな方面からの信頼をゼロにしちゃう。あの人がそんなことを望むはずがない。
それにあの人のことだし、桐生家とのつながりが消えた以上、舞花様を無理して連れ戻そうとはしないはず」
「……そういうもんか。ちなみにだけど、もし、警察が調べて、それでも宝仙の行いが明るみにならなかったらどうしゅるんだよ? そうなったら意味なくないきゃ?」
「大丈夫。もし調べれば明るみになるのは間違いない。だって、舞花様がいるし、何だったらあたしもいる。
……それにもしあの人が、信頼とかを全て捨てて、警察に行くなら、あたしにも考えがある。
──だから、アンタは安心して」
妙にその言葉が優しく聞こえた。
柚莉愛が全てを優しく包み込む母のように見えた。
「か、かんじゃき……お、お前……良いやちゅだな……」
「急にどうしたの? 頭でも打った?」
「う、打ってねぇよ! 一緒にいたから、しょれくらい分かるだろ!?」
「いや、冗談だから」
柚莉愛が「はぁ……」と呆れた息をもらす。
「んじゃ、あたしは行くから」
「お、おう」
それから柚莉愛は
だが、少し歩いて、1度是清の方に振り返った。
それから、
「高坂、舞花様をよろしく頼むよ」
そう残した。
「まかせとけ」
是清が力強く返す。
(最後のは決まったな)
今度こそ、柚莉愛が姿を消した。
「んじゃ、俺も行くかな……」
是清も教室に向かって、歩を進めた。
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