第78話 そんなこと
そして駅に向かう。
その道すがら、
「その、高坂さん」
舞花に呼ばれた。
「ん?」
「その……1つ、聞いてほしいことがありまして」
「なんだ? 目玉焼きには、ソースの方がいいのか?」
少しふざける。
「いえ……そうではなくて」
舞花は真剣だ。ひょっとして、何か重要な話なのだろうか。
なら仕方ない。是清は1度立ち止まった。
同時に、舞花も立ち止まる。
「俺にできることなら、話してくれ。別に迷惑でも何でもないから」
優しく語りかける是清。
「では…………でしょうか」
極端に舞花の声が縮んだ。
「悪い、よく聞こえない。何だって?」
率直に聞き返す。
「で、ですから……その……『是清さん』、とお呼びしてもいいでしょうか?」
「へ……?」
間の抜けた声がもれる。
(え……? 何、そんなこと……?)
舞花が真剣なものだから、何を言われるのかと思ったが、そんなことなら、答えは決まっている。
「別にいいぞ。……もしかして、さっきの真百合の言葉でも気にしたか?」
「……えー……は、はい」
「はぁ……。いいか? 舞花。お前は別にそういうのは気にしなくていいんだぞ? 俺を何と呼ぼうとお前の自由だしな」
「そ、それは分かっています……。でも」
「でも?」
「わ、私が……そうお呼びしたかったんです……」
「は……?」
是清は目を丸くした。
「あ、ひゃ……? え……?」
脳が舞花の言葉を理解する。すると、自然と顔が赤くなるのを感じた。
「そ、そゆこと……へぇ……へぇ」
(待て待て。1回落ち着け。俺も昔、舞花には似たようなことを言ってるんだ……ふぅ)
呼吸を繰り返して、平静を保つ。
「な、なりゅほどな。ま、まあ……舞花の、す、好きに呼ぶと、いいさ」
噛みまくった。
平静を保つのも楽じゃない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます