第77話 新しい風景

 翌日の5月23日、木曜日。天気は快晴。

 最近になって、是清は自力で起きるようになってきた。前までは、真百合や空太が強引な手段で起こしにきていたが、それももうなくなった。まあ、もっとも、真百合や空太が今まで以上に早く起こしにきたら、意味はないが。

 重い身体をなんとかして起こす。


(ったたたたた……ッ!)


 筋肉痛がひどい。原因は間違いなく、昨日のあれだ。運動不足のくせに、思い切り動いたせいだ。

 痛みを堪えながら、リビングに向かう。


「おはよう」


 言いながら、扉をくぐる。

 リビングにいたのは4人。

 母親である美香、妹である真百合、弟である空太、そして、


「あ、おはようございます。高坂さん」


 姫路家のご令嬢である姫路舞花だ。

 父親は朝が早いので、すでにいない。たまには、いるのだが。

 是清は自分の定位置に座る。

 もう朝ご飯は出来ていた。ちなみに目玉焼きやウインナーといった白米のお供があった。冷める前に食べてしまおう。


「いただきます」


 両手を合わせて、はしを持つ。ほとんど同時に、家族の全員が手を合わせた。もちろん、舞花も。

 どうやら自分が来るのを待っていてくれたらしい。


「あ、舞花。醤油しょうゆ取ってくれるか?」


 目玉焼きには醤油派の是清。これは譲れない。


「あ、はい。……どうぞ、高坂さん」

「サンキュ」


 醤油を受け取って目玉焼きにかける。

 それから、目玉焼きを口に運ぼうとして、真百合が舞花をジッと見ているのに気づいた。


「えーと……どうしたのですか? 真百合さん」


 舞花も視線に気づいたようだ。


「ん……なんで舞花お姉ちゃんはさ、おにーちゃんのことを『高坂』って呼ぶの?」


 空太も顔を上げた。


「そう言えばそうだ」

「へ……?」


 舞花がそんな声をもらす。

 確かに舞花は是清のことを「高坂さん」と呼ぶ。けど、さっき舞花は真百合のことは「真百合さん」と呼んだのだ。この分なら空太はたぶん「空太さん」になっていることだろう。

 だが、まあ、別段気にすることでもない。それに、高坂が何人もいたら、混乱する。

 舞花が是清に視線を送る。


「ん? 別に無理に変えなくてもいいぞ?」


 今まで「高坂さん」と呼び続けてきたのだ。いきなり変えろとは言わない。

 まあ、自分だけ名字で呼ばれていたら、多少は寂しいかもだが。


「は、はい」


 舞花は返事を詰まらせた。

 それが気まずかったのか、真百合が話題をガラリと変えた。ひとまずは、今の話は終わりだ。


「……ごちそうさま」


 少しして、朝ご飯を終えて、食器を片づける。

 電車の時間もあるので、支度したくは急ぐ必要がある。

 10分ほどで支度を終え、舞花を待つ。


(迷子になられても困るからな……)


 とりあえずは一緒に登校することにする。

 少しして、舞花もやって来た。


「んじゃ、行くか」

「そうですね」


 2人して、玄関を出る。

 そして駅に向かう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る