第75話 反省しても繰り返すことはある

「はぁはぁ……」


 舞花を連れて逃げた先は駅だった。

 とは言え、それも必然だった。今から、是清の家に向かう予定だからだ。

 追ってについては来ないことを祈る。でもその可能性は低いだろう。追ってなんてのは映画などのフィクションでしか、是清は知らない。


(おっと……)


 改札をくぐる直前で気付く。


(俺は定期だけど、舞花は切符か……)


 舞花は登校に電車を使う必要がないので、定期なんて持っていないだろう。

 素早く舞花の分の切符を購入した。


「ま、舞花。これは切符って言ってな……そこの改札に通すん、だ……」


 肩で息をしながら伝える。


「し、知っています! それくらい! 馬鹿にしないでください!」


 怒られた。反省しよう。確かに今のは悪かった。

 2人で改札をくぐり、ホームで電車を待つ。

 すると、チラチラと何度か視線を感じた。是清はそれを敏感に感じ取った。


(……? ひょっとして俺が注目されているのか……?)


 そんなことはない。

 こちらを見ていたのは、音羽坂高校の女子生徒だったが、彼女たちが見ていたのは舞花だ。

 女子高生はわりと声が大きいため、「え、何あのかわいい子!? うちらと同じ高校だよね!? ね!?」とか「うっわ! 肌綺麗!」とかいう会話が聞こえた。

 改めて、舞花がどんな美人なのか思い知らされる。

 ちなみに当の本人は今は息を整えていた。


(まあ、結構な距離走ったしな……)


 それから少しして、息を整えた舞花が是清に1歩詰め寄った。


「高坂さん。さっきのあれは?」

「あれ? ああ、切符のことか」

「ち、違います! なんで柚莉愛や篝さんが来たのか、ってことです。何か、知っている感じでしたよね?」

「……まあな」


 素直に肯定する。誤魔化す必要はない。


「事前に頼んでおいたんだ。舞花が桐生に結婚は嫌だって伝えた日にな」

「……そう、だったんですか」


 元々、是清は今日姫路家に行くことを決めていた。

 だから事前に姫路家に来るように、篝に頼んでいたのだ。また、柚莉愛にそのことを伝えるようにも頼んでいた。


(本当は神崎には俺が頼んでも良かったが、俺じゃあうまく話せないからな……)


 当初の予定では、是清が適当に話を進めておいて、不意打ちで柚莉愛と篝を投入。宝仙に考える時間を与えず、舞花を連れ出す算段だった。


(なのに宝仙の奴、日本刀なんて使いやがって……)


 あれは本当に怖かった。寿命が絶対に縮んだ。

 宝仙は是清が思っていたよりもずっと怖い人だった。

 ともあれ。今はこうしてここにいる。とりあえずはこれからのことを考えるべきだ。

 是清はまず母親である美香の元にメールを送った。


『こないだの件なのですが、今日家に女の子を1人連れていきます』


 初見で見たなら、恋人を連れていくと勘違いされそうな文章だ。……まあ、悲しいことにその心配はない。

 しばらく待っていると、電車が来た。

 それなりに混んではいたが、窮屈きゅうくつってほどでもない。いきなり舞花を満員電車に乗せるわけにはいかないので、助かった。


「舞花、これは電車って言ってだな──」

「知ってます!」


 そう是清に残して、舞花は先に電車に乗る。


(最後のはわざとだけど、悪いことしたな……)


 そこは反省する。

 が、同時に収穫もあったのだ。

 怒っていても、舞花はかわいらしかった。

 絶対的な美人とはすごいものだ。

 是清は1つ賢くなったところで、舞花に続いて電車に乗り込んだ。


 ◇


 一応書いておきますと、是清が篝に頼み事をしていた描写があるのは58話となっています。

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