第68話 進展
望まないことが控えている時は、どうしてか時間の進みが早い。放課後はあっという間にやって来た。
(うわぁ、逃げてぇ……)
舞花との約束がすでにあるため、逃げるつもりは今となっては毛頭ないが、そんなことを思ってしまう是清。
しかし当の少女はそんなことを気にせずやって来た。
「高坂さん」
「ああ」
教室にいるため、クラスメイトの視線が刺さっているのが分かる。是清と舞花がそれなりの関係ということは隠し通せるものでもない(そもそも隠すつもりはないが)ので、ならば早めに色んな考察をされる方が是清的にはありがたい。
「ねえ、姫路ちゃん」
と、いきなり舞花に用があるのか、クラスメイトの女子が舞花に声をかけた。
「なんでしょうか?」
「あのさ……姫路ちゃんさ、昨日もそこの
どうやら是清は名字さえクラスメイトに覚えられていなかったらしい。
女子が続ける。
「2人ってどんな関係なのかなっ?」
食い気味に彼女は尋ねる。
「どんな、と言いますと?」
「えーと、その……こ、恋人だったりする、の?」
(結局、ストレートに聞いてんじゃねえか! 最初遠回しに聞いた意味ねえな!)
「! そ、そんなわけないじゃないですか! ……今は」
舞花は一瞬の動揺の後にすぐ否定した。
(即否定ッ!? いや、事実だけどさ……俺割と傷つくよ? ねえ?)
とは言え、そんなことを口に出せるはずもなく、是清は黙って会話を聞いていた。
やがて舞花と女子との会話は終わりを迎え、女子の方は別の集団に混ざった。そして混ざるや否や、「彼氏じゃないみたいだよ」とグループで話していた。
どうやらさっきの女子がグループの代表として是清と舞花の関係に探りを入れに来たらしい。
(ったく、話のネタにされる気持ちも考えろよな……まあ、いいけど)
どうせ、その場限りの話題にしか上がらない。そう思って是清は割り切った。
さて、と是清は舞花に向き直る。
「行くか、姫路」
「はい」
是清は舞花を連れて学校を後にした。
「姫路。これが終わったらやりたいこととかあるのか?」
姫路家に向かう道すがら、黙ってるのもなんだったので、そう話を振った。
「終わったら、ですか? そうですね…………ど、どうしましょう? やりたいことが多くて、何からすればいいのか分かりません」
たった今気づいたかのように、あたふたと慌て始める舞花。
けれど当然だ。舞花は家庭の事情で普通なら経験しているような多くのことを知らずに今日まで生きてきたのだから。
「ま、それもそうか」
「……あっ、ならですよ、高坂さんが色んなところを案内して下さいよ」
「俺がか?」
「はい。駄目でしょうか?」
「いやいや、大丈夫だ。でも俺でいいのか? 俺はそもそも外出とかそこまでしないし、男だから行きたいと思うところも違うと思うぞ」
(こちとら、そのせいで姫路とのデートプランにずっと頭を悩ませていたほどだからな。……リア充の風上にも置けんな)
「なら好都合じゃないですか! あまり外に出ない者同士なので2人で勉強しましょう」
「ふむ……そういうことなら」
なんだかんだで、約束を取り付けた是清と舞花。
先のことを前向きに考えられるのは良いことだ。
「さて、姫路。話は変わるんだけどさ、ちょっと真剣な話をしてもいいか?」
突然是清はそう切り出した。
元々、いつか言うと決めていたのだ。ならそのタイミングは今がいいだろう。
「? はい、どうぞ」
舞花が受け入れたので、是清は少し置いて、喉からその言葉を紡ぎ出した。
「──これからは姫路のことを『舞花』って呼んでも構わないか?」
「! ……な、なんですか、そんなことでしたか」
一瞬の動揺を隠すように舞花は言う。
それから彼女が呼吸を落ち着かせて、続けた。
「はい。構いませんよ。……でもなんでそんないきなり?」
「理由は何個かあるけど、即席のもので言うなら、ひめ……舞花の父さんも『姫路』だろ? 分かりにくいと思ってな」
「そういうことですか。最初からそう言ってくれたら良かったんですよ」
確かにそう前置きしていれば、舞花もそこまで動揺せず、是清も恥ずかしさは減っていたことだろう。
だが、そんな選択肢を是清は持ち合わせていなかった。
「そ、それはだな、なんか言い訳? みたいな感じになるというか……実は1番の理由は俺がそう呼びたいからであってだな……」
頭が混乱しているからか、本音がどんどん漏れていく。
「自分に正直なところは高坂さんらしいですね」
「……そりゃ、どうも」
舞花が茶化し気味に言ってくるので、素直に礼を口にできなかった。
これ以上話していたら、さすがに是清には辛いので、それから話題をずらりと変え、他愛もない会話を続けた。
そして。
ついに是清たちはラスボスの住まう屋敷に到着した。
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