第66話 親の偉大さ
舞花と別れた後、是清は真っ直ぐ家に戻った。
「ただいまー」
靴を雑に脱ぎ捨て、家に上がる。
するとすぐにリビングの方からエプロン姿の美香が顔を見せた。
「おかえり是清ちゃん」
「ただいま」
それから是清は母親の続きの言葉を待った。
「なんとですね! 今日のご飯はカキフライになります!」
だがその内容は予想に反していた。
例のことはすぐには聞かないということだろうか。
是清は話を合わせる。
「へぇ。カキフライ」
「うん……あっ! 火かけっぱなしだった! 焦げる焦げる!」
そのまま美香がリビングの方に戻ろうとした。
(ありゃ? あのこと聞かんの?)
まさかさっき是清が聞いたことが頭からすっぽり抜け落ちているなんてことはあるまい。あえて聞かないでいるのか……。
「ね、ねぇ母さん!」
思わず是清は語気を強めてそう言っていた。
美香が「ん?」と言いながら、こちらを振り向く。
「さっきのことだけどさ、なんで何も聞いてこないの?」
「さっきのこと? 女の子が何とかってやつ?」
「そう」
「えーと、聞いて欲しかった?」
「いや、そういうことじゃないんだけど」
むしろ正直に答えるなら聞いて欲しくなかった。
けれどいざ聞かれなかったら、是清の方から話題に取り上げていた。難しいところだ。
「是清ちゃんのことだから、きっとさっきの話には大きな事情があるんじゃないの?」
「! う、うん」
どうやら是清は自身で思っていた以上に母親から信頼されていたらしい。
「でしょでしょ! やっぱママの目はごまかせないよ。
そういうことなら大丈夫。今更1人増えたところで問題ないし、パパもきっと分かってくれるよ」
口ぶりから察するに、すでにこのことは真百合と空太の耳には入っている。
要するに後は父親を説得さえすればいいわけだ。と言っても父親は甘い人なので問題はない。実質オーケーが出たようなものだ。
「母さん」
「何?」
「ありがとう」
「うん! あ! でも1つ聞いていい?」
「ん?」
「その子って是清ちゃんの彼女さん?」
「ちゃうわ!」
空気がガラッと変わる。
さっきまでの美香への感謝が薄れる。
けれどこの状況でそれはどこかありがたかった。
「そっか……」
「そんなことより母さん」
「何?」
「カキフライ焦げるよ」
「あぁ! いけないっ!」
さっさとリビングに美香は戻る。
その背中を見送ってから、是清は1度部屋に戻った。
(母親ってのはすごいんだな)
そんなことを思いながら……。
ちなみに今夜のカキフライだが、普通に美味しかった。
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