第65話 予想に違えて

 素直にそう答えておいた。


 するとそのタイミングで2つのことが同時に起きた。

 1つ目は立派な姫路家が視界に入ったこと。もうそんなところまで歩いていたとは。

 2つ目は是清の携帯が鳴ったこと。メールだ。差出人は予想がつく。

 当然のことなのだが、舞花を是清の家に住まわせるにあたって、焦点を当てるべき問題は是清の家族にある。

 さすがに是清1人の判断で、高坂家に女子を1人増やすことなど、とてもじゃないができない。

 なので、是清はさっき母親の美香の元に、1通のメールを送っておいた。内容はもちろん舞花のこと。

 だが、1度に全ては話さなかった。

 これはとても大きな出来事なので、駆け引きも重要になる。最初から事情を全て話した上で、断られてはどうしようもない。

 そのためまず送ったメッセージは


『非常に急なのですが、実は家で引き取りたい女の子が1人おりまして』


 という内容だ。

 メールだと敬語になるのは、何も是清に限った話ではないだろう。そこは気にしてはならない。

 まあ当然だが、こんな内容でメールが飛んできたら『どういうこと?』といった具合で返信が来るはずだ。

 つまりそれからが是清の腕の見せ所。今まで屁理屈で鍛え上げたそのトーク力で美香を説得しきる。

 是清はポケットから携帯を取り出した。

 その様子に舞花も気がついた。


「高坂さん……」

「ああ。分かっている」


 是清も舞花もゴクリと喉を鳴らした。

 意を決して是清は画面を覗き込む。


『いいよ』


 そこにはこう書いてあった。もちろん差出人は美香だった。


「高坂さん……」

「あ、ああ。分かって…………ん?」

「ど、どうしたんですか?」


 舞花はそっと横から画面を覗き込んだ。


「……え?」


 唖然とする舞花。

 是清は顔を上げた。それから大きく深呼吸。

 再度視線を落とす。


『いいよ』


 画面にはさっきと同じことが書いてある。


「は……? なぁ、これって……?」

「わ、私に聞かれても……」

「え? 何、いいの? いや、そういうこと……だよな?」

「え、あ、はい。おそらく」


 半信半疑のまま、何とか決断を下す。

 確かに美香はつかみどころのない人間だが、まさかここまでとは……。


(何考えてんだあの人は!?)


 ともあれ。


「えーと、じゃあその、いいみたいだから……」

「は、はい。その、ありがとうございます」


 頭を下げる舞花。

 どうやら嬉しい誤算が起きたみたいだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る