第60話 放課後の魔の手

「はぁ……。災難だった」


 職員室を後にするや否や、是清はため息をこぼした。

 しかしそれも当然だ。さっきまであの国語教師に説教を受けていたのだから。やっぱり国語を得意としているだけあって、いちいち選ぶ言葉が是清にぐさぐさ刺さって来たのだ。

 それでも10分休みという都合上、ついさっきそれは終わった。

 その間、是清は始終、「トイレに行って遅れました」の一点張りだった。

 でも。一応だが。

 是清は「どうせもう遅れているんだから」と自分に言い聞かせて、篝と別れた後に、のんびりと用を足していた。

 どうせ授業に遅れることは確定していた。その時間が1分程度増えたところで、気にはならない。


(やっぱりおとなしく正面から行くべきだったな……)


 今更ながら後悔する。

 こそこそ行ったから逆に怪しまれたのだ。

 証拠に後から来た篝にはお咎めなしだ。

 ちなみに校長がどうしてあの場にいたのかだが、ただの見学だったらしい。2年生の授業の様子を見て回っていたのだとか。

 本当に嫌なタイミングだ。

 でも幸いだったこともあった。

 ここ音羽坂高校は一定以上の時間授業に参加すれば、欠席にはならない。

 是清はギリギリその基準を満たしていたため、未だに皆勤賞が続くこととなった。

 良かった良かった、とポジティブな思考で教室に向かう。

 少し急ぐ必要がある。説教が長かったせいで、多分すぐに6時限目が始まるからだ。




 是清の予想は見事に的中して、教室に入ると同時にチャイムが鳴った。


(ギリギリだな、本当に。……まあ、間に合ったからいいか……)


 そんなことを考え、授業に臨んだ。

 が、実際のところ、それは形だけであり、真面目に勉強するかと言えば、是清は首を横に振る。

 今は優先して考えることがある。

 舞花のことは当然だが、やはり是清も我が身大事の精神を捨て切れはしない。

 放課後になったら高確率で、是清の元には少し面倒な生徒たちが足を運ぶことだろう。

 ではどうするべきか。

 単純だ。


(逃げるしかないよな……)


 是清の行動はクラスの人間の耳に届いていると仮定した方がいい。

 その上で考えると、結局最も良い方法は、舞花を連れてすぐ逃げる、だ。

 それからは今後の話なりなんなり、すればいい。


(帰り支度だけ整えとこ)


 それから是清は放課後になった瞬間に帰れる、もとい逃げれるように準備を進めた。

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