第55話 身分差
自分でも残酷なことを告げたという自覚はある。
しかしやらない選択肢は元よりなかった。
舞花と約束したのだ。「助ける」と。
「…………」
是清の言葉を最後に、誰も口は開かなかった。
するとやがて予鈴がみんなの耳を刺激した。このタイミングはありがたい。
「授業始まんじゃん。じゃ、アタシは行くから……」
ギャル系の女子が空気に耐えきれなかったのか、鐘が鳴り終わる前にその場から踵を返した。
それに続いて、逃げるように他の生徒も移動し、そこには是清と舞花、そして篝が残された。
「……じゃあ私たちも行きますか」
篝の取り巻きに合わせるように舞花がそう口にした。
もうすぐ授業が始まる。それにいつまでもここにいても仕方ない。そういうことだろう。
「そうだな……」
是清も賛同して、移動を開始しようとした。
だが、
「──待ってくれないか?」
背中にかかった声に反応して、ピタリと足を止めた。
この場にいる人間を考えれば、声の主は一瞬で分かった。
「……桐生?」
「……篝さん?」
是清と舞花がほぼ同時に不審に思って尋ねる。
いったいどうしたというのだろうか。
「高坂くん。君と話がしたい」
ということらしい。
「俺と?」
「そう。できれば2人きりで」
「……それは授業をサボって、ってことか?」
篝は静かに首を前に倒した。つまりはそういうことだ。
けれど、あまり乗り気にはなれない。
「困ったな……。キングオブ真面目なんて称される俺が授業をサボることがあったら一大事だ。こっちは自慢じゃないが、全部の授業で皆勤賞なんだけどな」
「別に君はそこまで真面目じゃないよね」
「失礼な」
「それに僕だって今日まで1回も授業を休んだことはないよ。おあいこってことで」
それらしい理屈を並べてはいるが、何がおあいこなのか理解できない。が、追求しても面倒なだけなので、それはやめた。
代わりに別の角度から切り込む。
「……ほら、あれだろ。授業をサボったりしたら多少なりとも目立つだろ? 俺はそういうのとは無縁だから」
「いや、授業出ないくらいじゃそこまで目立たないし、そもそも昼休みのことを僕の連れが話して回るだろうから、結局目立つのは変わらないんだけどね」
是清の苦し紛れの抵抗もあっさりと正論で殴らた。
しかも考えたくなかったことまでご丁寧に述べてくれた。
(こりゃ、何言っても聞かなそうだな……)
こういう時は諦めるの1択しかない。
「はぁ……。姫路、話は聞いていたな? 先に戻っていてくれ」
ため息を吐いて、承諾の意を伝える是清。
「…………分かりました」
舞花はただそれだけ残して、その場を後にした。
そこに残されたのはついに是清と篝のみになった。なんとも奇妙な組み合わせだ。
是清は篝に視線を合わせた。
「で、なんだ?」
「うん。高坂くんと話したいことがあってね」
こうしてスクールカーストの底辺をうろつく是清と逆にそれの頂点に君臨する篝の話し合いが始まった。
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