第51話 それでもやはり

 篝は基本的には優しい人間だ。

 今まで生きてきた中で、暴言を吐かれたことは極端に少ないため、クラスメイトから「人生をめちゃくちゃにする」などと言われれば、戸惑いを隠せないのも無理はない。


「え……? 高坂くん、何を言って……」

「言葉通りの意味だ」


 はっきりと言ってのける。

 今更後には引けない。


「あの、高坂さん?」


 また戸惑うという点では舞花も同じらしく、頭に疑問符を浮かべていた。

 是清は自分の名を口にする彼女の方に視線を向けた。

 舞花が続ける。


「今言ったことは……?」

「姫路」


 疑問には答えず、ただ少女のことを呼んだ。


「は、はい?」

「自分で言うのもなんだが、俺は約束は守る人間だ」


 約束の部分にアクセントを置く。


「約束……? あっ……」

「思い出したか?」

「はい。でも……」


 その続きは舞花の口から出て来なかったが、何が言いたいのかは予想がついた。

 きっと気にしているのだろう。これでは是清に迷惑がかかるのでは? などと。


「姫路。大丈夫だ。任せてくれ」


 だから是清はそうきっぱりと口にした。


「高坂さん……」


 舞花の声質に僅かな変化が見て取れた。

 後もう一押しと言ったところか。


「あの時から俺の考えは変わっていない。だから俺に賭けてみないか?」

「…………」


 舞花が少し考え込む。

 そんな彼女に是清は促しをかけるように言葉を並べた。


「ギャンブルは強い。そうだろ?」


 デートの日にふとした会話の1つで、そんなことを話した記憶がある。


「あ……」


 舞花も覚えていたのだろう。でなければ、こんな反応にはならない。


「ちょっとてめぇさっきから何話してるわけ? 任せろだとかギャンブルだとか」


 声の主が舞花でないことは容易に分かった。

 それは例のチャラ男の声。

 その声質から是清に敵意剥き出しなのは、簡単に理解できた。


(今いいとこだったんだけどな。やっぱこいつは好きになれそうにないや……)


 すでに彼からの印象は最悪だ。

 黙ってろ、と言ってのけることも頑張れば可能だが、今は舞花の返事を優先したい。


「……あの、高坂さん」


 舞花は依然いぜん是清の方を向いたままだ。

 どうやら彼女もまたチャラ男のことは無視すると決めたようだ。


(今回は神は俺に味方したな。ざまぁみろ、チャリア充が!)


 チャラ男とリア充をかけてチャリア充。違和感だだ漏れだが、どうせ是清の中だけでの言葉だ。それに是清のネーミングセンスのなさは今に始まったことじゃない。


「なんだ?」


 いつまでもだんまりとはいかなかったので、舞花に続きを促す一言。

 それに彼女は呼応するように頭を下げた。


「──お願いします」


 ここまでされたらノーとは言えない。


「ああ、分かった。姫路が言いたいことは俺が全部言ってやる」


 是清はきっぱりと口にした。

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