第48話 修羅場

 昼休みの始まりを告げるチャイムが鳴る。学校に着いてから待ち望んでいた時間がようやくやって来た。

 是清は嬉しさオンリーといった表情で、足早に例の場所に向かう。

 舞花が来るのは一旦教師からの呼び出しを挟んでからなので、毎回先に是清が待機しているという構図が出来ている。

 早く来ないかな、とそわそわしながら弁当を食べる。本当は一緒に食べたかったりもするが、昼休みは決して長くはないので、そこは諦める。

 それから少しして、内履きが地面を擦る音が聞こえて来た。

 間違いない。舞花だ。


「こんにちは、高坂さん」

「おう、姫路」


 とりあえずスムーズに本日最初の挨拶を済ませる。舞花は立場が立場なので、教室だと話しにくいのだ。

 それにしても是清の態度も随分と変わったものだ。初めて舞花と会話した時なんかは、これでもか、というくらいひどかった。


「今日は何をしましょうか?」


 楽しげに問うてくる舞花。

 待ちきれないといった様子だ。

 ここで焦らしたい気持ちもゼロではない。が、ここは賢明な判断に出る。


「ああ、今日はだな──」


 その続きが是清の口から旅立つことはなかった。

 というのも、


「──あっ、こんなとこにいんじゃん、舞花ちゃん」


 男の声に言葉を遮られたからだ。

 チャラい雰囲気をかもし出す男。


「え……?」


 是清と舞花が同時に目を白黒させる。


(なんでここに人が……? しかもあいつは……)


 是清はその男を知っていた。とは言ってもそれなりの認識を持っているという意味なのだが。というのも是清が彼の名前すら知らぬが、彼がクラスメイトでさらに桐生篝の取り巻きであることを知っていたからだ。

 是清が観察を続けていると、彼の後ろから何人か生徒が出て来た。ほとんどがクラスメイト。中には篝もいた。


「あ……」


 舞花も許嫁の存在に気づいたのだろう、唖然あぜんとしていた。

 だがそれでも舞花は何とか口を開いた。


「か、篝様……どうしてここに……?」


 何とか言葉をひねり出した感じだ。

 それとは打って変わって、篝は淡々と言葉を並べていく。


「それは僕のセリフだよ、舞花。これは先生からの呼び出しには見えないけど……」

「……っ」


 言葉に詰まる舞花。篝の言葉は的を射ている。


「最近変だと思ったんだ。いくら先生からの呼び出しとはいえ、普通毎回昼休みが終わるギリギリになるのかなって。こういうことだったんだ……」


 是清も言ってる意味は理解できた。

 あの日から舞花が教室に戻るのは予鈴と本鈴の間だ。怪しまれたのは必然と言える。


(つっても、どう考えても最悪だろ、これ……)


 内心に僅かに焦りを覚える。

 ここがとんでもない修羅場と化す予感がした。

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