第40話 勝負
◇
柚莉愛に示された道を進むと、やがて知っている道に出た。いつも音羽坂高校に登校する時に通る道だ。
「この道につながるのか……」
登校ルートの辺りは完璧に把握しているが、少し離れただけでこの始末だ。
普段から極端に出かけない人間の自分を恨む是清。
少し地理の勉強をしたところで、ここからは迷うこともないので、真っ直ぐと駅に向かった。
駅に入ると、目当ての電車がちょうど1分後に出発するのが分かったので、ありがたく感じながら乗り込む。
さっきまでとんでもなく焦っていたせいで、まだ体温が高いのが自分自身でも分かる是清。是清は分からないが、その顔は真っ赤だ。
加えて片手にはお土産の焼き鳥。
これではまるで飲み会の帰りのおっさんだ。
現に何人か是清にチラッと視線を向ける。
未成年の是清が飲酒なんてするはずもないのに。
結局是清は視線に気づくこともなく、目的の駅に到着した。
そのまま真っ直ぐと高坂家に向かった。
「ただいま」
無事に自分の家についた。
「あっ、おかえり是清ちゃん」
「うん、ただいま。……母さん、ご飯てもう出来た?」
「ん? いや、まだだよ。今日はちょっと遅くなっちゃって。ごめんね。すぐ作るから」
「あ、いや、そのことなんだけど……お土産があるからさ。……これでどうかな?」
「お土産? わぁ、是清ちゃん優しいね!」
本当はただもらっただけなのだが、手に持っていたお土産を差し出す。
美香はそれを受け取って、嬉しそうにリビングへと戻った。
是清もその後でリビングに入った。
ちょうどそこには父を除いた家族全員が揃っていた。
「真百合、空太、ただいま」
それに反応するように真百合と空太が「おかえり」と言うが、いつもの感じではなかった。
どうやら彼らは集中しているらしい。トランプのスピードとやらに。
「懐かしいことしてるな」
反応はない。
その間にも2人は素早くカードを減らしていく。
すごいのはそのタイミング。なぜか全く同じスピードで試合が運ぶ。運要素の多少なりとも並ぶスピードではかなり珍しい。
「はい、終わり!」「こっちも終了」
そしてこれまた珍しいことに2人が終了したタイミングが全く同じ。引き分けだ。
ちょっと、いや、かなりすごい。
「すごいな、2人とも。俺もやっていいか?」
昔是清は友達が出来たらやろうと思って、トランプのゲームは一通り覚えた。スピードも例外ではない。
弱い人間が勝負に勝つことは難しいが、強い人間が勝負に負けることは簡単だ。ということで、是清は友達とやる前にスピードは1人で猛特訓までしてた。
結局それをする機会は今までなかったが、さすがにそれは悲しい。
この辺で兄貴がどんなに有能か見せつけてやろう。そんなことを是清は考えた。
「うん!」「いいよ」
そんなわけで順番に勝負が始まった。
そして是清の結果は10戦10敗だった。
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