第38話 神様の存在
しばらく移動しても、暗いのも相まって知っている道にはたどり着かなかった。
最悪か、その1歩手前。それが今の是清たちの状況だ。
早くしないと舞花の父親が帰宅する。
その事実に、是清は奥歯を噛み締める。
(どうするんだよ? このままじゃ、まずいぞ)
ここで舞花を見捨てるという選択肢はない。
彼女をデートに誘った時点で最後まで無事に完遂するのは是清の義務でもある。
とはいえ、是清は認めたくないだけで分かってはいた。今からじゃ舞花の父親の帰宅までに屋敷に戻ることは不可能だと。
チラッと舞花を横目に見る。
彼女はまだ希望を捨ててないように見えた。
たった1回の私的な外出すら許されないのか? と是清は行き場のない怒りを覚える。
(神様。もしいるなら、こんな意地悪してないで助けろよ)
拳を握って、ついにはそんな空想上のものに祈りを捧げる。
が、神様なぞいない。是清の祈りは意味を成さない。
はっきりと是清が諦めを実感しようとした。
──その瞬間
「やれやれ。こんなところで何してるんですか? それも2人して……」
神様の声……ではなかった。
それに是清は聞き覚えがあった。
舞花も心当たりがあったのか、是清とほぼ同時に声の主の方を向いた。
「か、神崎!?」「柚莉愛……?」
そう。そこには舞花の使用人の神崎柚莉愛がいた。
彼女は出会った頃と変わらぬ調子で告げる。
「帰りますよ。早くしないと宝仙様が帰って来ます」
「え、ええ……」
戸惑いを隠せない舞花。
ともあれ柚莉愛の登場はありがたい。
もう道が分からなかったのだ。
柚莉愛なら、道を知っている。それは彼女の「帰りますよ」という言葉からも予想が立つ。
しかし問題がなくなったわけではなかった。
「か、神崎」
「ん? なんですか?」
「今って何時だ?」
「6時です」
当然のように答える柚莉愛だが、それは求めていた回答ではない。
「それわざとだろ! 何分か聞いてるんだよ!」
「ああ。47分ですよ」
「っ!? 7時まであと16分かよ!」
この時の是清の頭脳は小学生にも劣っていた。
「13分ですけどね」
「え? ……あっ…………」
独り言としてではなく、その場の全員に言い聞かせるように叫んだため、より一層恥ずかしさが増す。是清は顔が熱くなったのがはっきりと分かった。
「そ、それで間に合うのか? あと13分って……」
「歩いて行ったら無理でしょう」
どこか含みのある言い方。
でも是清はそれに気づかない。ぎりと奥歯を噛み締める。
「っ……じゃあ──」
「──大丈夫ですよ」
すると、是清の言葉を遮るように柚莉愛がそう口にした。
どういうことだ? と、疑問が出たのも束の間。すぐに思い当たることがあった。
柚莉愛が言葉を続ける。
「じゃあ、ここをずっと真っ直ぐ行けば多分知ってる道に出ると思うからアンタは勝手に帰って。あたしは舞花様を連れて屋敷に戻るから」
言うが早いか、柚莉愛は舞花をお姫様抱っこの形で抱き上げた。
「舞花様。全速力で帰りますよ」
「……はい。今回は素直に頼らせてもらいます。
じゃあ、高坂さん。えーと……セーフゾーン? での約束は守って下さいね」
「セーフエリアだけどな」
ここは非常にどうでもいいところだが。
「そうでした。まあ、とにかくまた学校で会いましょう。今日は楽しかったです。ありがとうございました。さようなら高坂さん」
舞花が別れの挨拶を告げると、柚莉愛と共にその場をあとにし、すぐに2人の姿は暗闇に消えた。
(そういえば神崎の身体能力は神がかっていたな……)
改めてそれを実感する。どうして是清はそれにさっきまで気づいていなかったのか不思議だ。柚莉愛がその身体能力を披露したのは今日のことだというのに。
自分の馬鹿さに呆れながら、是清は柚莉愛に言われた通り真っ直ぐと道を進んだ。
◇
何回体験してもこれには慣れそうにない。
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