第19話 考えてみれば当然のこと
柚莉愛は迷わず駅に向かった。
(可能性は十分あったけど、姫路の家は何駅か向こうだったのか。午前中走り回ったのは完全に無駄だったわけだ)
悔しい思いを胸に抱えて改札をくぐる。
柚莉愛が乗った車両に是清も乗って、椅子に座り、何分か待つ。
日曜日とはいえ、時間が時間なので、席はいくらでも空いていた。
わりとすぐにその電車は発車した。
「なぁ、何駅で降りるんだ?」
「そこに着いたら分かるから」
「……そ、そうか」
強く聞くこともできず、是清は簡単に引き下がる。
それから電車に揺られること10分と少し。
柚莉愛が席を立った。
どうやらもうすぐ目的の駅に着くらしい。
「ん?」
首を傾げる。
というのも、その駅が毎朝是清の利用する駅だったからだ。
音羽坂高校の最寄り駅。ここで降りるのを意外に思いながら、是清も席を立つ。
電車を降りて再度改札をくぐる。
互いに何も言わないで、ただ黙々と歩いて行く。
そしてどれくらい歩いた頃だろうか、柚莉愛がいきなり足を止めた。
「着いた。ここよ」
「……っ」
一瞬言葉に詰まった。
理由の1つにあまりにもそこが立派だったというのが挙げられる。
だが是清にとって肝心なのはそこではなかった。
なぜならその家は
「──こないだ出来た場所かよ!」
通学中に見かける屋敷だったから。
4月15日の月曜日。圭成と一緒に登校した日。姫路舞花が転校して来た日。
その日、本当に何気なくだが、この建物を圭成との話のネタにしたのを思い出した。
それと同時に理解した。
普通に考えれば推測くらいは立つことだったのだ。
姫路家は名門だから、立派な建物に住んでいる。ここまでは是清にも分かっていた。
そして舞花が転校して来た日にはここの工事は終わっていた。
ここまで立派な建物はそうそう簡単には建たない。
おそらく4月13日の土曜日には工事は終わり、それから引っ越しをしたのだろう。
これほどの屋敷を建てるようなお金持ちのことだ。最悪、普通の引っ越し業者に頼らずとも、荷物を運ぶことは可能だったのだろう。
そんなわけで日曜日にはすでに完全に引っ越しが終わっていたはずだ。
(考えてみれば当然のことじゃないか……)
自分がどれほど馬鹿なのか改めて理解した瞬間だった。
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