第20話 信じられないスペック
昼食の時間や移動時間があったため、舞花の屋敷に着いた時には1時ちょっと過ぎだった。
迎えに行くにはピッタリの時間だ。
是清は場所さえ分かればどうにでもなると思って、立ち止まる柚莉愛を追い越し、入り口の方に歩を進める。
「待って」
だが柚莉愛が肩を掴んで、それを阻止してきた。
「うあっ」
その力が結構強く、是清は間抜けな声を出して、少し体勢を崩した。
女子ってみんなこんなに力が強いのか? などと軽い恐怖を覚え、柚莉愛にこの行動の意味を尋ねる。
「な、なんだよ神崎。もう時きゃ……時間はちょうどいいだろ? な、なんで邪魔しゅんだよ?」
「はぁ……。アンタって馬鹿なの?」
「ば、馬鹿とはしちゅれいな!」
「いや失礼とかじゃなくて。いい? 今からアンタがやろうとしていることは誰にもバレたらいけないの」
「しょうだな」
「あたし以外の使用人に連れ出すのを見られたらそれは即アウト。なのに正面から行くって? やっぱり、アンタ馬鹿?」
「くっ……」
ぎりと奥歯を噛み締める。
柚莉愛の言っていることは正論だ。
もしバレたら是清も、そしてもしかしたら舞花もどうなることか。想像しただけでも恐ろしい。
「分かったらついて来て」
「お、おう」
柚莉愛は正面入り口から逆に離れて行く。
(裏口から入るのか。たしかにそれなら……)
柚莉愛はこの屋敷の使用人ということなので、マップは完全に把握している。
是清でなくとも今から柚莉愛は裏口に行くのだと予想を立てる。
だが実際は
「じゃあここから行くから」
道の中ほどで柚莉愛は立ち止まった。
そこは完全な塀。しかも高さもある。
とても裏口には見えなかった。
「え? うら、裏口じゃないのか?」
柚莉愛がため息を吐く。
「はぁ……。裏口もあるけど、そこも安全とは言い難いから。1番バレないのはここ」
言いながら柚莉愛は何歩か後退りする。
どうしたんだ? と思った次の瞬間。
彼女はものすごい勢いで地面を蹴り──
「え?」
──壁を走って塀の上に着いた。
(は、はあぁぁぁッ!?!? な、何がどうなっているんだ!? この塀どう見ても人2人分以上はあるぞ!?)
唖然とする是清のことなど気にせず、柚莉愛が淡々と言い放つ。
「さ、早く上がって来て」
「いや、無理だろッ!!」
「大丈夫。アンタならできるよ」
「無理無理無理!!」
「舞花様とデートしたくないの?」
「めちゃくちゃしたいです」
「そ。じゃあ──」
「──でも無理なもんは無理ッ!!」
「はぁ……。じゃあほら、掴まって」
またもやため息を吐かれ、柚莉愛は塀の上から手を差し伸べてきた。
だがここで問題が1つ。
塀が高いせいで、ジャンプしてもギリギリ柚莉愛の手を掴めないのだ。
「早くしてよ」
「わ、悪い。で、でも届かないんだ」
「まったく……」
呆れ顔で柚莉愛は体勢を変えた。
普通に塀の上から手を差し伸べるのをやめると、塀に膝をかけ、宙吊りのような感じで手を出してきた。
「これでどう?」
「あ、ああ。届く」
今度はジャンプをせずとも届く距離に柚莉愛の手があった。
しかしそれを取るのは
「でも、これは神崎が危険だゃ」
「危険? へぇ。あたしの心配をしてくれるんだ。でも大丈夫。早く掴まって。急がないと舞花様とのデートが短くなるよ」
「……それは困る。……わ、分かった。無茶はしゅるなよ」
恐る恐る柚莉愛の手を掴む。
──瞬間。
「うわぁぁぁッ!?」
──是清の身体は宙に浮いて、目の前には塀の天辺があった。
慌てて塀に掴まり、何とか塀の上に着いた。
「はぁはぁ……。死ぬかと思った」
「これくらいじゃ、死なないわよ」
体勢を直した柚莉愛がジト目を向けてきた。
「さ、次」
「休憩なしかよ……」
この時点で精神的にかなり参っている。
まさかお嬢様相手にデートするのがここまで大変だとは。
是清は覚悟を改めた。
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