第13話 普通の考え方

 20分が経った。

 デートプランを立てるのは意外と難しく、未だに最初の予定すら決めかねていた。


(世の中のリア充たちはこんなことを週1くらいでしてるのか。……素直にすごいな)


 1回のデートプランすらロクに立てられない是清が毎週デートなんて、どうなるか分かったものじゃない。

 と、そんな時だった。

 部屋の扉をノックの1つもせずに開けてくる者がいた。


「およ。本当におにーちゃん帰って来てた。おかえりおにーちゃん!」


 小学生くらいの女の子。決して長くはないその髪を1つの箇所で留めていて、動かなければ人形と間違えてもおかしくないほとんど左右対象な顔立ちをしている。

 信じられないが、彼女は是清の妹だ。それは是清を「おにーちゃん」と呼ぶことからも分かる。


「ああ。ただいま、真百合」


 真百合がそのままずかずかと部屋に上がり込み、ベッドに腰を下ろした。

 是清の家族は是清の部屋を不定期で訪れるのだが、今はいつもとは事情が違う。


「真百合」

「なに?」

「ちょっと今な、大事なことをしている最中なんだ。あとで遊んで上げるから1人にしてくれないか?」

「大事なこと?なになに!?」


 真百合を部屋から出そうとしたのに、逆に食いつかれてしまった。

 後悔するもすでに遅い。

 だがここで気づいた。


(真百合の意見も取り入れるか……)


 そう。案外こういうのは、他者の意見というのが大事なのだ。

 そうと決まれば話は早かった。


「なぁ真百合? 真百合って好きな子とかいるのか?」


 今の状況を素直に打ち明ける方がずっと早いが、まだ知られたくないことなので、話をずらしながら情報を手に入れる。

 まずは好きな子という話題からだ。

 いきなりこんなことを聞かれた人間からしたら、たまったものじゃない。

 事実、真百合もきょとんとした表情を浮かべている。


「ふぇ!? いきなりどうしたのおにーちゃん!?」

「いや、なんか気になってな」

「難しい質問だよ、それは。……あ、おにーちゃんは好きだよ」

「ああ。俺も真百合は好きだよ。でもそういうのじゃなくてだな。学校とかにそういう子はいないのか?」


 真百合が腕を組んで上を向く。


「う〜ん……今は別にいないよ」

「そっか。……じゃあさ、もし好きな子が出来たら、どこか行きたい場所ってあるか?」


 なんとか聞きたかったことを質問できるまでに至ったので、早速聞いてみた。


「なんか今日のおにーちゃんはやけに積極的だよ」


 その指摘は最もなことかもしれない。

 だが今はそんなことを気にしている暇はない。


「そうか? ……それで、どうなんだ?」

「行きたい場所…………遊園地!」


 名案を思いついた顔をして答える真百合。

 そんな彼女には悪いが、却下だ。

 さすがにあそこは人が多いので、最初に行くにはハードルが高すぎる。

 続けて質問をぶつける。


「他になんかないのか?」

「えーと……お洋服屋さん!」

「ふむ……」


 今度はかなりまともなのだった。

 洋服屋はたしかに悪くない。

 なんなら舞花も行きたいと言っていた。

 有力候補の1つにしておく。


「あとは?」

「う〜ん。あと……あとは…………あっ! おにーちゃんの部屋!!」

「はぁ!?」


 突然の回答に戸惑う是清。


「なんか理由があるのか?」

「もちろんだよ。

 例えば歯医者。ここは真百合は嫌いだから行きたくないの」

「真百合はすごく歯医者が嫌いだからな」

「うん。でもおにーちゃんの部屋。ここは真百合はおにーちゃんが好きだから、いても嫌にならないの。どう? 分かった?」

「あ、ああ」


 要するに嫌いなところにはいたくないし、好きなところにはいたいという至極当然の考え方なわけだ。


「まあ、俺の部屋というのはなしにしても、色々参考になった。ありがとう真百合」

「お安いご用ってやつだよー」


 すると満足したのか、真百合は部屋を出て行った。


(結局あいつは何しに来たんだ……?)


 あとに残ったのはそんな疑問だけだった。

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