第10話 言えなかった答え
授業終了の5分前に体育は終わり、素早く着替えを済ませた是清は遠回りして教室に戻った。
あのまま更衣室にいたくもなかったし、戻るのが早過ぎると女子の着替え中で、面倒な事が起こりかねない。
しばらくして教室に着いた。
扉が閉まっていて中の様子が見えないが、この時間ならもう女子の着替えは終わっている。
すると女子の着替えはすでに終わっていたため、是清に奇異の視線が向くことはなかった。
(まったく。これで着替え中だったらどうするんだ?
いつも、着替え終わったら扉は開けとくように言っているだろ)
是清に大きな発言力はない。
後半部分は嘘なのだが、そんなことはどうでもいい。
自分の席に戻り、チャイムと同時に教室を出れるように帰り支度をする。
1分後に放課後への切り替えを示すチャイムが鳴り、是清は教室を出る。
廊下にはまだ1人として生徒はいない。
是清のクラス以外はまだ授業が続いているからだ。
素晴らしい環境に感謝しながら生徒玄関に向かう。
足音を殺して、静かに廊下を歩き、階段を降りる。
その中ほどまで行って、さっきの是清とは反対にそれなりの足音を立てながらこっちに誰かが来るのが分かった。
(迷惑な生徒もいたもんだな……)
あくまで自分からしたら他人事だというような考え方だ。
しかしその考え方はすぐに改めることになった。
というのも
「高坂さんッ!」
その人間が姫路舞花だったからだ。
自分の名前を呼ぶ言葉に反応して振り向く是清。
全力で走ったのか、舞花は少し息を切らしている。
「姫路さん? ど、どうしたんでしゅか?」
噛んだ。
唐突のことだ。
無理もない。
(うおぉい! こんな場面で何やってんだよ、俺!!)
心の中で叫びを上げる。
幸いなのかは分からないが、是清のミスが指摘されることはなかった。
舞花がさらに数歩是清に近づき、声をかけてくる。
「さっき、答え言ってませんでしたよね? 今言わせて下さい」
「答え? ……昼休みのあれか?」
呼吸を整え、なんとか普通に話す。
「はい。今度の休日一緒に出かけようっていうあれです」
改めて言葉にされて、手汗が出てきた。
だが答えは分かっている。
その答えじゃなければ、わざわざ是清の元に出向いたりなんてしない。
「……それで?」
その答えに誘導するように率直に聞く。
やがて、意を決した舞花が口を開く。
「はい。私……高坂さんとは出かけられません!」
半ば反射的に軽いガッツポーズを取る。
(やりました! 休日デート決まりました! これで俺もリア充の仲間入り…………あれ? ちょっと待てよ……)
一瞬浮かれた是清だが、すぐに冷静になる。
「……もう1回言ってもらえるか?」
「あ、はい。高坂さんとは出かけられません」
意味を理解するのに時間がかかったのは言うまでもない。
(…………え? えぇぇぇぇ!?!? なんでだよ!
明らかにオーケーの雰囲気だっただろ!!どうなってんだよ!!!)
初めからオーケーが出る前提で話を進めていたため、この時の恥ずかしさは倍増している。
これほどまでに数瞬前の自分を叩きたくなったのは久しぶりだ。
◇
ついに10話突破です。
ここまで読んでくれた方ありがとうございます。
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