第6話 違和感の正体
今の是清と舞花の距離は3メートルも離れていない。
おまけに互いを認識している状態で、周りも静かだったため、是清も舞花もその場から逃げ出すことは難しい。
「あなたはたしか同じクラスの……クラスの…………」
どうやら覚えてもらってはいないらしい。
「たゃ、高坂是清だ……です」
動揺して噛んでしまう是清。
「……ごめんなさい。それと無理に敬語を使わなくて大丈夫です」
「ど、どうも。それよりどうしてきょ……こんなところに?」
またちょっと噛んだ。
ここには滅多に人は来ないため、まずこう聞くのはなんら不思議なことではない。
「えーと…………たまたまです。…………学校の探索をしていたのですが」
「しょういうことか。えーと…………学校には……慣れたゃか?」
「あ、はい。それなりに」
「それはよきゃ……よかった」
さすがに話すのが下手くそ過ぎる。
いったん息を吐き出して呼吸を整える。
だが時はすでに遅く、冷たい沈黙が訪れていた。
「…………」「…………」
たっぷり20秒ほどしてやっと舞花が沈黙を破った。
「……あの……じゃあ私はそろそろ行きます。邪魔するのも悪いですから」
この場から去る旨を伝え、最後に軽く微笑んで
本来なら
なのに至近距離でその笑顔を見た瞬間、是清は思い出した。思い出してしまった。
(10日前に感じた謎の違和感の正体はこれだったのか…………)
舞花が転校して来て自己紹介をした時は気のせいだと決めつけた違和感があった。
でもそれは気のせいではなかった。
ではそれはなんだったのか?
今その正体に気づいた。
(なんだ、その顔は?
なんだ、その乾いた笑顔は?)
昔から是清は他人の顔ばかり伺う人間だった。でもだからこそ、少女の笑顔が偽物であることを見抜いた。
でも、だからなんだというのだ?
彼女は今日初めて話した人間だ。
放っておけばいいじゃないか。
と、瞬時にそう考えた。
だというのに、不思議なことに身体が勝手に動いていた。
こちらにすでに完全に背を向けている舞花に無雑作に近づく。
そして
パシッ。
是清は軽快な音を刻んで、舞花の腕を掴んでいた。
「ちょ……ちょっと待ってくれ」
当然、舞花は疑問を浮かべる。
「……? どうかされましたか?」
行動したはいいが、なんと言えばいいか分からない。
「えーと…………その、少しでいい。そこで……話さないか?」
なんとか絞り出した言葉はそんなものだった。
自分の語彙のなさとコミュ力の低さを恨む。
「……? どうしたのですか? いきなり」
「すまん。嫌だったらそう言ってくれ」
「……いえ。……ちょっと驚いただけです」
舞花は存外落ち着いた様子で進路を変更した。
さっきまで是清が寝ていた位置に足を揃えて綺麗に座り、その横に是清も座る。
すると舞花と目が合った。
その美しさのせいなのか、とても恥ずかしいが、ここで逃げ出すわけにはいかない。
(落ち着け……)
再び呼吸を整え、今度は完全にとはいかないが、なんとか緊張を抑え込むことができた。
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