第4話 舞花の様子
転校生の姫路舞花が音羽坂高校に来て10日が経った。
彼女はいつもニコニコしている上、その容姿も相まって、あっという間に学校では有名人になった。
そんな姫路舞花という少女。実は只者ではなかった。
何を隠そう、彼女は許嫁。すでに将来の結婚が約束された身なのだった。
その相手は是清と同じクラスの桐生篝。
(あんな美人が将来妻になるなんて、篝はさぞご
皮肉を込めて心の中でそう漏らす。
それにしてもふざけた話である。高校生の時点で結婚が決まっているなど。
ちなみに朝っぱらからこの2人は一緒に登校して来るというなんとも嫌味なことをしてくれた。
是清にそこまで親しくない人間と話す力はあまり備わっていないので、あくまで伝え聞いた話ではあるが、どうやら桐生家と姫路家は昔から浅くない関係で、かなりの交流を持っていたため2人が生まれた時に親同士が固く婚約の約束をしたらしい。
子供からしてみればたまったものじゃない。
現在はちょうど3時限目が終わったところで、みんな10分休憩に入っている。
是清は話す相手がいなくて、寝たふりをすることしかできない。
だが眠いわけではないこの時間だ。意識が夢の世界に飛ぶことはなく、代わりに色んな会話が耳に入る。
ある女子が1週間後に誕生日を迎えるとか、課題が終わらないとか、犬の散歩をしてたら不審者に追いかけられたとか。
(…………あれ? なんか最後の方すごいこと言ってなかったか……?)
そんな会話もいいが、やはり耳が嫌でも拾ってしまう会話がある。
「あー、やっぱ何度見てもいいわー。篝君の許嫁が舞花ちゃんだなんて。ここまでお似合いの2人そんなにいないよー」
「あんたは本当にそればかりよね。ごめんね、こいつこんなことばっか言ってて」
彼女らはよく舞花と一緒にいる2人だ。
名前は発言の順に
転校したての頃は他クラスの人間も来てたほどだが、10日も経つと、最初ほど彼女の元に人は集まらない。
それでも2人はずっと舞花の近くにいる。
「いえ。大丈夫です」
軽く微笑みながら返す舞花。
やはりどうしても彼女の会話に耳が傾く。
「それにこんないい子。ウチが嫁に貰いたいくらいだよ」
「よ、嫁……ですか?」
舞花が戸惑いの表情を浮かべる。
「ああ、気にしないで。こいつの口癖みたいなものだから」
「は、はぁ」
舞花がなんかよく分からないといった様子で答える。
(嫁って……。よくそんなことが平気で言えるな)
是清がこんなことを思ったところで、誰もそれには気がつかない。
結局是清は意識がはっきりしたまま10分を無駄にした。
チャイムと共に姿勢を起こし、首のこりをほぐす。
すぐに先生がやって来て、挨拶を済ませると4時限目が始まった。
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