第2話 リア充を嫌う

 家を出ると、特に意識をすることなく、最短距離を通って最寄り駅に向かう。


 当然だ。


 今は高校2年生。もう1年間はこの道を通っている。ボーッとしていようが、考え事をしていようが、道は間違えない。

 駅に着き、改札をくぐって、電車が来るのを待つ。

 幸いにもほとんど待つことなく電車が到着したので、近いドアからそれに乗り込む。

 この時間帯が混雑するというのが主な理由で、席は空いていないので、つり革につかまって電車に揺られる。

 それから10分と少しで、目的の駅に着いたので、電車を降りて再度改札をくぐる。

 あいかわらずここは人が多い。だいたいは会社員と学生だろうか? と、そんなことを考えながらなるべく端に寄って歩いて行く。だが別に意識して端に寄っているわけではない。

 駅を出て少しすると、是清を呼ぶ声が後ろの方から聞こえてきた。


「おーい、是清」


 それに反応するように頭だけ後ろに向ける。

 そこには1人の見知った少年がいた。背が高く、綺麗な顔の造形をしている。


「……お前か、圭成。おはよう」


 是清は友人の佐山圭成さやまけいせいに向かって朝の挨拶をしておく。

 話すのが得意とは言い難い是清にとって、「おはよう」や「こんにちは」のように決まった言葉というのは、都合の良いものだ。


「うん。おはよう」


 言いながら圭成が隣に来たので、並んで歩く。

 彼は是清とは逆の駅から、電車でここまで来るのだが、ここに着くのがほとんど同時だということで、こうやって一緒に登校することがある。

 知らぬ誰かがもし是清と圭成を見たら、その違いに疑問を感じることだろう。

 片やクラスでも目立たなそうなおとなしい男子。片や控えめに言ってもイケメンという言葉が消えそうにない明るい男子。

 正反対な2人だ。

 もし仮に横にいる人間が圭成以外のだった場合、是清はすぐにでも逃げ出している。

 というのも是清がイケメンというのをそこまで好きになれない人間だからだ。

 けれど、それはイケメンは彼女持ちだと決めつけているから。もっと言えばイケメンとリア充をイコールで結んでいるからだ。

 でも圭成ときたら、まだ付き合った経験が1度もないという。

 作らないのか、それとも作れないのかは考えないようにしているが、ともあれ、彼女が1度も出来ていないことから是清は圭成に勝手に仲間意識を持っている。

 そんなわけで、圭成とは普通に話すし、登校も一緒にするというわけだ。


「是清。最近なんか面白いことでもあったか?」


 話の話題を探すためか、圭成がそう切り出した。

 そんな彼を裏切るようで悪いが、本当に最近は何もない。


「特にないな。学校行って、家帰って、ゲームをしたりして。毎日同じことの繰り返しだ。彼女の1人でもいれば、楽しくなるんだろうけどな」


 是清はリア充というものが嫌いだが、自身はリア充になってみたいと考えている。

 だって彼女とかいたら普通に楽しそうだし。


「彼女か……。是清なら、普通に出来ると思うけど──」

「嫌味か!?」

「ははっ。違う違う」


 そんなどうでもいい会話をしながらいつもと変わらぬ道を歩いて行く。

 だが今日に限ってはいつもと違う景色が見て取れた。


「……工事終わったんだな」


 独り言としてポツリと呟く。

 金曜日にはたしかまだ工事中だったその建物が、今はすでに完成していた。

 するとその独り言を圭成に拾われた。


「本当だ。立派な家だ……」

「そうだな」


 2人の視線の先にある建物は『立派な家』というよりかは『屋敷』という方が適切に思えた。

 こんな風に頭を働かせてはいるが、互いに歩を緩めようとはしない。

 別にここに1つ建物が増えても自分たちには関係ないからだ。

 そうこうしているうちに学校に着いた。

 音羽坂おとわざか高校。それが是清の通う学校名だ。

 上空から見たらロの字になっている学校で、綺麗な中庭のあることで有名だ。


「やっぱ、ここの坂は疲れるな」


 圭成が息を1つも切らさないでそう声をかけてきた。

 いったいどの口が言っているのか。

 圭成は運動部だから変なことではないのだが、是清はというと、この時点で結構疲れている。

 音羽坂高校に着くためには、必ず経由しなければならないそれなりに急な坂があり、聞いた話では、音羽坂の名前の由来がこの坂にあるのだとか。


「こんな高校に入学を決めた時の自分を恨め」

「間違いないな」


 生徒玄関に向かい靴を履き替える。


「じゃあここで」

「ああ」


 そしてすぐに是清と圭成はクラスが違うということで別れ、それぞれでクラスに向かって足を進めた。

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