98.雨あがりの鳥と花


 本日2話目……と思ったら更新してる間に日が変わってた……

 ともあれ、直前にもう一個更新してます


 これにて第二章の最終話です


 そして、またタイトルを弄ってしまいました 安定せずにすみません


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【View ; Syuko】


 待ち望んでいた放課後がやってきました。


 私は足早に屋上へと向かいます。

 屋上の扉を開けて、外へと出てみますが、どうやら私の方が早かったらしく人の気配はありません。


 ……人の気配はないのですが……。


 それと、何でクラスメイトの結構な人数が私のあとをつけてきているんでしょう?


 謎です。

 謎ですが聞いたところで答えて貰えそうにないから気にしません。


 そうして、しばらく待っていると、屋上のドアが開きました。


 そちらへと視線を向ければ、制服ではなく私服姿の華燐さんがドアを潜ってやってきました。


 学校用のナチュラルメイクではなく、気合いを入れて遊ぶときのようなガチメイク。

 ネイルも気合いの入った仕様です。もちろんいつでも拳が握れるように、爪は短くしてあります。


 服は、おへその出るくらいの丈をした、メッシュ袖のフェイクレイヤードシャツに、だいぶ色褪せた風のダメージジーンズ。


 靴も運動性の高さと、お洒落さを兼ね備えたもののようです。


 イヤリングや首飾り、ブレスレットなどの小物も効果的に身につけて、大変お洒落で可愛い感じで……。


 なんていうか、完全武装フルアーマー華燐さんという印象なのですけど、この気合いの入りようはなんなのでしょうか……。


 何やら緊張しているかのような、ガチガチの華燐さんが近づいてきます。

 なんか見てるとこっちまで緊張しちゃいますね。


 無表情――というよりも必死に感情を押さえ込んでいるような顔で、華燐さんは私の前までやってきました。


「えっと、あの……しゅ――十柄さん!」

「はい」


 ガチガチ過ぎて、好きな子を呼び出して告白しようとしてるかのような雰囲気でてませんか?


「その、うんと……えと……」


 何か言おうとしてテンパってますね。

 お目々ぐるぐるの顔真っ赤々なんですけど……。


「あの、アタシ……あれ……えーっと」


 さっきまでの必死なポーカーフェイスはどこへ……?


「えうー……」


 なんか頭から湯気が出てる気がするので、少し助け船を出しましょうか。


「華燐さん」


 呼びかけると、華燐さんはすごい勢いで私に顔を向けました。

 目が驚きで見開かれています。


「か、かりんって……しゅーこちゃんが、かりんってよんでくれた……」


 え? 待ってください。何で涙目になってるんですか?


「ともだちじゃないって……ともだちじゃないっていわれてたのに……」


 あー……。

 これは、ちょっと私が悪いのかもしれません。


 あの時は華燐さんを正気に戻したくて言った言葉でしたけど、彼女にとってはすごく重い言葉だったのでしょう。


 華燐さんの顔がくしゃくしゃと歪んでいくのを見ると、心が痛みます。

 同時に、そんなになるほど私のことを大切に思ってくれていたのかと思うと――不謹慎かもですが、少し嬉しいです。


「もう、泣かないでください華燐さん。

 せっかくの気合いの入ったメイクが落ちちゃいますよ?」

「やさしい……ひどいコトしたのに、しゅーこちゃんがやさしいよー……」


 そんなッ!?

 ますます涙目になるなんて――……ッ!!


 え? これ、どうしたらいいんですか?


 ちゃんと彼女が言いたいこと言えるようになるまでどれくらいかかるか分からないんですけど?

 ……かといって優しい言葉をかけると涙目になりますし……。


 うーん。


 華燐さんは、気合いを入れて謝罪をしたかったのでしょう。

 でも、華燐さんの抱いている罪悪感は、私が思っているより――いえ、本人が考えていた以上に重いモノだった。

 だから、謝ろうとすると、嫌なイメージや、自分のしたことへの罪悪感で言葉が出なくなってしまう。


 そんなところでしょうか?


 だとしたら――


「華燐さん」

「……はい」


 名前を呼ぶと、情けなくしおしおとした表情で顔をあげます。

 前世でみた電気ネズミの映画を思い出しますね――ってそうではなくて。


 私は、華燐さんのしわくちゃ顔を見たかったワケじゃないんです。

 いつものように、明るく楽しくチュパロリップスを加えて笑っている顔が見たいんです。


 なので――ちょっと脳筋っぽい解決方法を取りましょうッ!


「避けてください」

「え?」


 宣言と同時に、私は大外から回し蹴りを放ちました。


「おわー!?」


 情けない顔をしていても、そこはさすがの華燐さん。

 もとより当てるつもりのない蹴りでしたけど、ちゃんとかわしてくれました。


「しゅ、しゅーこちゃん? やっぱ、怒って……」

「いえ。今の華燐さんを相手にするのが大変面倒くさくなりまして」

「め、めんどうくさい……ッ!?」


 ガーンとショボーンを同時に背負う華燐さんに対して、思わず嘆息が漏れます。


 ダメですね。ダメダメです。

 今の華燐さんは罪悪感強すぎて、何でもネガティブに捉えてしまいがちのようです。


 なら、やっぱこれですよね。


「躱すか防ぐかしてください。次は当てる気でいきます」

「え? え?」


 ――十柄流、重ね羽々斬カサネハバキリ


 戸惑う華燐さんを無視して、鋭く踏み込みながら、左手による掌底しょうてい


「わ、わ……?!」


 咄嗟に手をクロスして防ぐ華燐さんですが、私は構わずさらに踏み込みます。全身を捻り、その回転のチカラを右の拳に乗せて、華燐さんの腕に当てている左手の甲へ叩きつけました。


 瞬間――


「あぐぅ……ッ!?」


 華燐さんの両腕は、弾けるように天に向きます。

 それだけでなく、身体はバランスを崩し、後ろ側へとよろめいて――そこへ私は容赦なく踏み込んで、蹴りを放ちました。


「……ッ!?」


 当たってもそこまでダメージを受けないように調整した蹴りでしたが、バランスを崩した姿勢のまま、華燐さんは無理矢理バク転をして、それを躱します。さすがですね。


「シューコちゃん? マジ危ないんだけどッ!?」

「もうコレでいいじゃないですか」

「え?」

「うまく言葉にできない。うまく喋れない。うまく言葉を受け止められない。それなら、言葉ではない方法がいいかな、と」

「えーっと、それって……」

「拳を握って下さい華燐さん。幸いにして私たちは武術を嗜んでいます。

 うまい言葉が浮かばず変に時間を消費するくらいなら、コレでいいじゃないですか」


 なんか結構なギャラリーがこっそり(こっそりしてない)見ているようですけど、もう気にしません。

 そんなことを気にするより、私は華燐さんと仲直りしたいですから。


「拳で語り合う――華燐さんはお嫌いですか?」

「……すき」


 その言葉に目をパチクリさせてからうなずいて、グシグシと涙で潤んだ目を擦ります。


「お化粧、崩れちゃいますよ?」

「だいじょーぶッ!」


 いつもの明るい調子でそう答えて、華燐さんは笑顔で拳を握りました。


「本当はちゃんと言葉にしたいよ。だから最後には言葉で言う。

 だけど、今は言葉にできないから――コレでお願いッ!」

「はい。嘘偽りない言葉を拳に乗せてください。私の気持ちもちゃんと拳で返しますので」

「よろしくお願いしますッ!」

「はい。よろしくお願いします」


 しばしのにらみ合い。

 ややして、どちらともなく、私たちは一歩踏み出すのでした。


 ……二人で、笑顔で――


 ・

 ・

 ・

 ・

 ・


「そこまでだ」

「お?」

「あら?」


 私と華燐さんの間に、陽太郎君が入ってきて双方の拳を止めてきました。

 私の手首と華燐さんの手首をそれぞれの手で掴んでいます。


「いつまでやっているつもりだ君たちは」

「いつまで……?」

「えーっと……?」


 二人して首を傾げて周囲を見渡すと、いつの魔にやらだいぶ暗くなっています。

 日の暮れ始めから始めたはずが、すっかり暮れてしまった感じです。


 私と華燐さんはどちらともなく身体のチカラを抜くと、それを確認した陽太郎君も手を離しました。


「結構なギャラリーがいたのに良かったのかね?」

「そんなコトよりも、華燐さんとギクシャクしたままの方がイヤだったので」

「ありがとうシューコちゃん」


 えへへ――と笑う姿は、いつも通りのものでなんだか安心します。


「見学していた生徒が、二人のケンカがいつまでも終わらないと、先生に相談しにきたんだ。だが君たちの動きが凄すぎて先生じゃ無理だってコトで、俺が止めましょうと手を挙げた」

「それは、すみません」

「ごめんね、パイセン」


 いや、別にケンカしてたワケじゃないんですけどね。


「構わん。それと、ケンカではなく二人なりの対話であると先生方には説明しておいた。通じたかどうかは分からんが」

「重ね重ねご迷惑をおかけしました」

「完全に集中しちゃってたよー」


 ペコリと頭を下げる私と、バツが悪そうに頭をかく華燐さん。

 なにやらいろんな人に迷惑を掛けてしまったようですね。


「構わないと言っているだろう?」


 メガネのブリッジを軽く開いた手の左手の人差し指で押し上げ、陽太郎君は訊ねてきます。


「それで? 納得がいくまで対話はできたのか?」


 はい――と私がうなずこうとすると、それを華燐さんに制されました。


「華燐さん?」

「最初に言ったじゃん。最後にはちゃんと言葉にするから――って」


 そう言って、華燐さんは真面目な顔を私に向けました。

 汗と涙と打撃の痕でメイクはぐちゃぐちゃになってしまっていますが、それでも今日見た顔の中でも一番キレイな顔をしている気がします。


「バカに操られてたとはいえ、シューコちゃんにヒドいコトした! マジでゴメンなさいッ!

 友達じゃないって言われてめちゃくちゃショックで、悲しくて……だけど今日はアタシのコトを華燐って呼んでくれてめっちゃ嬉しかったッ! だから――えっと、また友達にしてくださいッ!」


 きっと華燐さんの精一杯の言葉。

 それ以上の言い方は思いつかなかったのでしょう。


 だけど、そもそもの前提が間違っているんですよね。


「謝罪は受け入れます。でも――」

「え――」


 あ、ちょっと早合点しないでくださいって!


「そもそも前提が間違ってますよ」

「え?」


 いやもうまた涙目になってるじゃないですかッ!?

 確かにちょっと私の言い方とか段取りが悪い気がしますけどッ!

 もしかしなくても、私もちょっとテンパってるのかもしれません……ッ!


「あの時は華燐さんに目を覚まして欲しくて、友達じゃないなんて言いましたけど――私は友達をやめた覚えはないですよ? あの時からずっと、継続したままのつもりでした。華燐さんは違うんですか?」


 それでも何とかその言葉を口にすると、華燐さんの両目が完全に水没しました。いや決壊? どっちだろうと状況は同じなんですが……!

 といいますか、なんで? どうして??


 私が戸惑っていると、華燐さんは号泣しながら――


「シューコちゃーん!!」


 ――私の名前を呼んで飛びついてきました。


「ごめんん~!! ぞれがらありがど~~~~!!!!」


 それを受け止め、抱きしめ返します。


「こちらこそ、私の為にそんなに泣いてくれてありがとうございます」


 前世では自分の為にこんな泣いてくれる人がいなかった気もします。

 こんな風に思ってくれる人がいるって、何だかいいですね。


「問題なさそうだな。ならば俺は帰る。

 帰る時は職員室に顔を出していくように。先生には一言言っておく」

「わかりました」

「わがっだ~~バイゼンもありがど~~」


 フッとシニカルな笑みを見せると、陽太郎君は屋上を去っていきます。


 誰も居なくなった屋上で、私は大泣きする華燐さんをしばらく抱きしめます。


「ごめん~~なんだが涙どまんにゃい……」

「いいですよ。落ち着くまでこうしてますから」

「ありがど~~」


 そうして日が暮れて、空が完全に夜の顔になってきた頃、泣きやんだ華燐さんといっしょに屋上を後にするのでした。



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【CHECK!!】

 花道ハナミチ 華燐カリン との 月光の絆 が 深まりました。



【TIPS】

 想定以上のファイトにギャラリーの多くはどん引きだったらしい。

 逆に二人に惚れてしまった人も男女問わずそれなりにいたようだ。


 また翌日、華燐のよくツルんでいる面々は、改めて教室内で謝罪してきた華燐とともに謝ってきた。

 それにより、華燐グループと鷲子の関係は、元サヤに納まっている。


 

【INFO】

 これにて第二章終了となります。

 準備が出来次第、第三章を始めたいと思います。

 あるいは、一章同様に少し閑話とかやるかもしれません。

 どちらであれ今後ともよろしくお願いします。


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