94.第二メイズ:過誤め過誤め――
【View ; Syuko】
織川先生の追憶を無視しながら、私たちで鳥かご型コアやそれを守る鬼女に攻撃をしていると、追憶とは違う声が聞こえてきました。
――クソッ、クソッ、クソ!!
――
――コイツら……どうしてこんなにナマイキなんだ!!
まぁ正しくは依愛先輩のドッペルゲンガーである
ともあれ――
「本体は華燐さんたちに殴られているようですね」
「こいつにとってのナマイキってやっぱ言うコトを聞かない奴らって意味みたいだな」
横で草薙先生が呆れた顔をしています。
華燐さんと依斗先輩のことですから、結構な暴力的手段で追いつめていることでしょう。
そんな本体の影響でしょうか。
鬼女は動きを止め、鳥かご本体もその動きを鈍くしています。
それを見て、私は一つうなずきました。
「さて、今のうちのケリを付けてしまいましょうか」
「賛成です」
即応する和泉山さん。
「どうしよう草薙先生。鷲子ちゃんたちが容赦ないよ?」
「アイツはいつも容赦ないだろ? ちなみにあたしも賛成だ」
「まぁ、今のうちに倒そうっていうのは賛成ですけど」
霧香先輩も草薙先生も賛成のようなので、とっととやりましょう。
――『センセさぁ、なんでガッコのセンセしてるの?』
――なぜ、だと?
なんてやりとりをしていると、急に華燐さんの声が聞こえてきました。
他の人の声は聞こえてこないので、恐らくは本体が受けている華燐さんからの問い掛けが、精神への強い影響を与えているからではないでしょうか?
その為、二人の問答が聞こえてきているようです。
「お、ちょっと興味あるな」
「そうですか? どうせ意味なんてないですよ」
草薙先生はちょっと興味が湧いたようですが、私はそうでもありません。
――『センセ曰くのナマイキなやつばっかじゃん? ガッコって』
「まぁ、華燐ちゃんの言うコトは一理あるよね。
少なくともみんながみんな聞き分けの良い素直な子なワケないし」
霧香先輩も興味を持ち始めてしまいました。
仕方ありません、攻撃はもうちょっと待ちましょう。
「馬鹿やらかすガキなんざ、男女関係なくナマイキでムカツクもんだしな」
「白瀬が言うと説得力があるな。そのナマイキでムカツク側の筆頭だっただろう?」
「姉御だって似たようなモンじゃないのか? 今のクールで自身に満ちたキャラのままだったなら、学生時代は結構問題児だったんじゃねーの?」
「否定はできないが……私の場合、幼少から裏社会や紛争地帯を転々としていたからな、高校時代が――初めての日本の、平和な世界での学園生活というモノだったから、馴れずみんなに迷惑をかけていただけだ」
バツの悪そうな和泉山さんの言葉に、草薙先生も霧香先輩も一瞬にして興味が織川先生から和泉山さんに移りました。
「姉御、そこんとこ詳しく!」
「わたしも知りたいです!」
それを言うと私も興味がありますが、織川先生を放置してはおけないので、とりあえず鳥かごを殴ります。
一応、鎖で反撃してきますが、どんどん弱々しくなってますね。
本体が華燐さんたちに、ボコボコにされているからでしょうか?
――大学卒業したときに行けそうなところが学校だったんだ。
――母親にも薦められた。
――うざかったけどほかの道が思いつかなかった。
――だから、まぁいいか……と、
――こんな目にあう仕事なら、来なければ良かった。
嘆く言葉すら身勝手ですね。
そう思ったのは私だけではないのでしょう。
――『じゃあとっとと辞めれば良かったじゃん』
華燐さんが不思議そうな声色で訊ねました。
わき上がる疑問は、私も華燐さんも同じようです。
――は?
――『なんでまだガッコのセンセしてんの?』
――何を言って……。
――『センセ以外の道は探したの?』
――教師以外の、道……?
――『センセしながらでも探せたっしょ? 歩きたいと思う道を』
――それは……。
――『本気になれなくても道にはできる。
でもセンセはしなかった。しようともしなかった。なら別の道を考えたりしないかな、ふつーはさ』
そして、華燐さんが静かに叩きつける言葉が、迷宮中に響きわたります。
――『最初は乗り気じゃなくてもいいじゃん。そーゆーモンもあるし。
むしろさ、そーゆー方が多いまであるっしょ世の中。
でもさ、センセとして仕事している中で、ちゃんとセンセとして進む道もあったはずじゃん?
でも、センセはセンセとしての道は煩わしいとすら思ってる。
じゃあ何か別の道を探しているのかと思えば、そういうコトすらしてないみたいだしさ』
華燐さんの言う通りです。
ハッキリ言って、織川先生はワガママ以外の何も見えてこないんですよね。
本心や精神の深くに触れることができるメイズの最奥であっても――です。
――……道。道だと? そんなもの、母親が敷いた道くらいしか……
本当にそう思っているのであれば、つくづく救いがない。
――『センセは今後もずっとセンセしていくコトをどう思ってる?
なーんて、アタシちゃんは思うワケ。
だってそうでしょ? センセはしたくないけど、別の道を探すわけじゃない以上センセとして生きていくしかないんだし?
でもさ、センセみたいな人。生徒代表として言わせてもらうけど、うっざいだけだよ? 外面だけ良いクセに、実際の中身は教師としてサイテーとか、関わるだけ損じゃん?』
外面で周囲を操り、生徒に対して目に見えない危害を加え続ける。
確かに、迷惑以外の何者でもないですね。
学校という閉鎖空間で、異常を異常として外に報告しない隠蔽体質がまだ根強い日本において、これほど厄介な教師はなかなかいないでしょう。
――それでも、他にやるコトはない。
――だからナマイキなガキを潰しながら、続けてくしかねぇんだよ!
分かってはいましたが、これほどまでに身勝手とは。
――『センセの言うナマイキってさぁ……』
やれやれ――という様子で、華燐さんが告げます。
――『前を向いて自分の道を歩いている人のコトでしょ?
あるいは歩こうと試行錯誤している人、かな?
その道を進む姿がキラキラしているのか、地味なのかは人それぞれだし。
自分の選んだ道を真っ直ぐ進むか蛇行するか迷走するかも人それぞれだし。
だけど、人それぞれに、その人が前を見て、一時目標であれ最終目標であれ、目的を持って突き進んで……時に周囲を省みずワガママに、だけど目標を目指すように足掻いている人たち全員を、センセはナマイキだって言ってるんでしょ?』
――お前……! どこまでナマイキなッ!!
――『急に語彙力なくなってるじゃん。図星?
なんであれ、口答えだとか態度だとかっていうのはただの言い訳。
自分が持っていない、自分の道を見つけて進もうとする意志――それを持つ人全員をナマイキって言って唾棄してるだけ。
その鳥かごのヴィジョンだって、自分は【かごの鳥】だっていう思いこみと言い訳で生まれた姿でしょ?
実際は隙間でスカスカだし、飛び立とうと思えば飛び立てるように作られているのに、飛び立とうともしない、情けない姿の現れ』
ああ、そうか。そういうことでしたか。
思考や思想が歪んだキッカケは両親の情事を見てしまったことかもしれません。
ですが、この人はそもそもが臆病者。
何より、中身が取り出せる……簡単に外へ出れるほどスカスカな檻というのは、ようするに……。
――『それにその能力も、女をどうこうしたい能力じゃないんだよね。
サキュバスケージの姿も能力も、センセの
本質的なところって意味だと、女は操ればそれだけで人生を台無しにできるし、操った女をあてがえば男の人生を台無しにできるってところっしょ?
だけど台無しにするコトに主義主張や意味や思想は一切ない。ただ台無しにしたいだけ。
センセの行動に意味も価値もないんだよ。だってセンセ自身がそこに意味も価値も見いだしてないしね。
それってさぁ、食事のために――生きるために、異性を誘惑し、えっちな方法で食い殺す本物のサキュバスやインキュバスと比べたら、失礼にもほどがあるじゃん』
言われてみればそうですね。
単に女性を屈服させる為の能力かと思っていましたが……華燐さん、すごいよく見てますね。いや考えている――が、正しいのでしょうか?
まぁ実際に本物のサキュバスが生きるための食事として男性を襲っているかどうかはさておきますが、言いたいことはすごく分かります。
能力発現の根幹がソレだというのであれば、私も同様のことを思います。
――『終わりだよ、センセ。
アタシたちはセンセを許さない。許すつもりもない。徹底的に潰す』
聞こえてくる華燐さんの怒気のはらむ声に私は力強くうなずいて、右腕に作り出した木のガントレットにチカラを込めます。
すでに鎖は動きを止めています。
華燐さんの言葉に動揺しているのか、精神への侵入者に反発するよりも、目の前の敵に注力しているというべきでしょうか。
あるいは――動揺しすぎているのか……。
どちらであろうと、隙は隙。
私は、全力でコアたる鳥かごに拳を打ち込みました。
ガツンという衝撃と共に激しく揺れる鳥かご型のコア。
同時に、鳥かごの中に光るモノが姿を現します。
なるほど――あの小さな光……いえよく見ると小鳥ですね。アレこそが、本物のコアなのでしょう。
動揺によるコアの露出――でしょうか?
華燐さんの言葉にもっと動揺してくれると、より強く輝いて狙いやすくなりそうですね。
宝石のように光る小鳥型のコアは、カゴの隙間から飛び立てそうなサイズです。そのことから、先生も無意識ではカゴからいつでも飛び立てるのだと、そう思っていたのかもしれません。
「外の華燐ちゃんと内の鷲子ちゃんで、もうだいたい終わってるね」
「ああ。あたしらの出番はなさそうだな」
「油断だけはせず、見守るとするか」
三人は完全に静観モード入りましたね。まぁいいんですけど。
――な、なんだ……なにか、チカラが揺らぐような……!?
まるで、チカラが壊れて消えていくような……。
本物のコアの露出は、現実の方にも影響を与えているようです。
――『しゅ――十柄さんたちがうまくやってるみたいだね。
じゃあ、こっちもケリをつけようよ。ダラダラしゃべってたのも、ちゃんとセンセの能力に対して、しゅ――十柄さんがどうにかしてくれる時間を作るためだしね』
華燐さん、ついつい鷲子ちゃんと口にしようとして、無理して十柄さんって言い直しているんですね
別に気にしなくてもいいのに……なんて思ってしまうのは少し身勝手でしょうか。
でも、なんだかすごい嬉しいです。
華燐さんの優しさと真面目さの現れなんでしょうね。
明るくて楽しい人で、ノリだけで騒いでいるようで――きっと本質的には優しくて真面目で強い人だから。
――何を言って……。
焦りと不安がどんどんと形になっているのか、光り輝く宝石のような色合いの
このままではカゴの隙間から出られないサイズになりそうですが……
「…………」
その宝石のような小鳥を、鬼女が見つめています。
守ってくれる――ということでしょうね。自分がピンチになっても絶対に母親が守ってくれる……むしろピンチになったら、母親の元へと逃げ出してしまえばいいと、そう考えているのかもしれません。
そんな人が、母親の敷いた道を歩みたくないなどと、よくもまぁ言えたものです。
――『センセが開拓能力であるのは今日までってコト。
明日からただの人。開拓能力者のやらかしは上手い具合に国家権力がねつ造して逮捕してくれるから、安心していいからネ。
その背中にしっかりと乗っかった罪、ちゃんと償ってくるよーに』
――この能力を失う……。
ふざけるな……ふざけるなよ! これは俺の特権なんだ!
ナマイキな奴らを、調子乗っている奴らを、無駄に楽しそうにしている奴らを引きずり下ろせる才能なんだ……!
仲良しこよしだって無意味なんだって
本当に最低な能力です。
その根幹に存在する考え方すらも。
――お前だって身に染みているだろッ!
お前と十柄がそうだったように……! 友情や愛情なんてのは、簡単にブッ壊れるんだよッ!!
現実と迷宮と。
その両方に響いただろう織川の言葉に、私の中にある何かがプツりと音を立てました。
「ふざけるなッ!!」
――『っざッけんなッ!!』
直後に、私と華燐さんの怒声が唱和します。
こちらの様子を伺っていた三人がビクりとしたようです。
「見えてる地雷踏み抜いたぞ、あの馬鹿」
「阿呆だな。本当に」
「さすがの私もキレそうなんだけど」
ビックリさせてしまったのは申し訳ないですが、こればかりは抑えられそうにありません。
私は髪の毛をいつものように、二つの拳に変えます。
そして、両手に木製ガントレットを本気で作り出します。
「その狭い了見で分かったような口を聞くなッ!!」
――『覚悟しろや、クソ教師ッ!
あの世に送るワケには行かねぇから、ムショで泣いて詫び続けろッ!』
現実と迷宮で、私と華燐さんは同時に吼えました。
「くたばれッ!!」
『くたばれッ!!』
四つの拳を用いて、これまでで一番本気のラッシュを鳥かごの――その中に見えた本物のコアへ向かってぶちこみます。
現実がどうなっているかは分かりません。
――やめろ、やめ、ろ……や、め……やめて……!!
でもきっと、同じように華燐さんもボコボコにしていることでしょう。
もしかしなくとも、お互いにやりすぎを咎められてしまうかもしれませんが……。
華燐さんと一緒に怒られるのなら、それはそれで構いません。
だから……
ガントレットに髪の毛で作ったツタを絡ませて巨大な拳を作りだし――
「これでぇぇぇぇぇぇッ!!」
――私は鳥かごごとコアを叩き潰すッ!!
だから……私はこの怒りを、隠すことなく叩きつけることにするのでした。
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【TIPS】
現実の織川は、格闘ゲームの乱舞奥義みたいな猛攻撃を受けてました。
トドメはしっかりとジャンプアッパー系の攻撃です。
コマンドはきっと2363214+P。
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