77.開拓能力者、すでに結構いるのかもしれません


【View ; Syuko】


「ナンパってあんまり良い印象ないんですよね」


 声を掛けてきた人たちを見ながら何となく口にする。

 それに、ちょっと面白そうな様子で雨羽先輩が笑った。


「さすが鷲子ちゃん、されたコトはあるんだ」

錐噛きりがみ 香兵こうへいですよ。印象の強いナンパって」

「あー……」


 その名前を出すと、先輩は思わずうめきます。


「そりゃあロクな印象にならないね」


 横で聞いていた花道さんも気になったのでしょう。


「ひっどい言われよじゃん、ソイツ。何したの?」


 不思議そうに訊ねてきます。

 それに、私は苦笑しながら答えました。


「私の髪の毛に一目惚れして、収集するつもりだったんです。能力使って。実際、彼の能力の影響で髪を一度切り落とすハメになりましたし」

「なるほど。さいあくだー」

「でしょう?」


 ナンパしてきた男性三人組への対応は完全に大人組任せです。

 こっちで適当に雑談しているうちに、和泉山さんと草薙先生が追い払ってくれることでしょう。


 ……などと思っていたのですが……。


でんでん虫のマイマイ・思い出研究室メモリーズ


 なんで、開拓能力使おうとしてるんですか、先生……ッ!?


 自分の傍らに二足歩行のカタツムリを呼び出した草薙先生に、私と雨羽先輩は驚いて目を見開きます。


「どんな能力かは知らねぇが……タチの悪いナンパだな?

 上手く行かなかったら開拓能力使って言うコト聞かすってか?」

「能力を使わねばナンパもロクに出来ん半端者というだけかもしれないがな」


 完全に臨戦モードになった二人を前にしてしまえば、多少ケンカに自信があろうと、無駄でしょう。


「最近さぁ、赤マイマイちゃんを使った他人の運命への赤入れ。どうも使い方が固定されている気がするんだよな」


 そう言いながら、草薙先生はためらうことなく男性たちの方へと踏み出していき――恐らくは能力者だろう人の顔を鷲掴みしました。


「メイズ化の兆しはまだみたいだから、これでいいか」


 そしてポイっと乱暴に男を放り投げます。

 恐らくは鷲掴みした時に、赤マイマイのチカラを使い能力を封印したのでしょう。


 草薙先生に投げられて尻餅をついた男性へ、今度は和泉山さんが一歩踏み出していき、下目遣いで告げました。


「偶発的に手に入れたチカラで調子に乗るなよ。私はそういう者たちが、能力を悪用している場合、取り締まる側の人間だ」


 加えて、結構な殺気をズドン。

 まぁ殺気だけで、実際に手を出す気はなさそうです。心を折るのが目的でしょう。


「ヒッ……!?」


 本気で怖がっているのか、男は喉の奥で悲鳴をあげます。

 その状況におろおろしている男の連れ二人へと草薙先生は告げます。


「お前ら、こいつを連れてとっとと失せな。

 分かってて付き合ってるのか、知らずに付き合ってるのかは知らんけどな。コイツは私らに対して一番やっちゃいけない手段を取ろうとした。

 だから私らは今、結構なマジギレをしているワケだ。それでもまだ、私たちや、連れの子供たち相手へのナンパ続けるつもりかい?」


 メガネを外して、その目を眼光鋭く眇めれば、たちまち彼らも悲鳴をあげました。


「す、すいませんでした~~!!」


 腰を抜かしたのか、ヘタリ込んだまま動かない男を左右から持ち上げて、二人は謝罪を叫びながら走り去っていきます。


「能力を使ってナンパか。ゾっとせんな」

「気軽に使いすぎなんだよな。ああいうのがいると、日常が油断できねぇ」

「同感だな」


 などと、草薙先生と和泉山さんはシリアスなやりとりをしているんですけど……。


「草薙先生がそれを言うのはどうかと」

「あたしは良いんだよ!」

「ずっこい言い訳キター!」

「くッ、鷲子ちゃんと華燐がいるとやり辛い……!」

「まぁ私もお前が言うなというところには同意するが」

「なんだとッ、姉御までッ!?」

「えーっと、実は私も……」

霧香ちゃんブルータスッ、お前もかーッ!?」


 先生は常日頃から、ネタ集めと称して能力使ってますからねー……。




 さて、能力者によるナンパというイベントはありましたが、その後は概ね何も起きなかった感じです。


 お昼も少し過ぎた時間。

 そろそろお腹が減ってきたということで、皆で荷物番を持ち回りしつつの買い出しをします。


 私は和泉山さんと一緒に、屋台が多く出展しているエリアへと向かいました。


 すると、とある海の家の前に出ている屋台に、人だかりが出来ているのが見えます。


「何でしょう?」

「パッと見ただけですと、鉄板で焼きそばを炒めているように見えますが……」


 うーん。焼きそばを作っているだけなら、そこまで注目を集めない気もしますが……。


「見に行ってみます?」

「はい」


 とはいえ、結構な人だかりですからね。

 見れなかったら諦めましょうか。


 そうして、件の屋台のところまで来るとちょうど良く人が捌け始めました。どうやら、作っていた焼きそばが完成して販売しはじめたようです。


 いわゆるライブクッキング的な売り方なんでしょうか?

 目立つパフォーマンスをするように焼きそばを調理して人を集めているのかもしれません。


 ……とはいえ、目立つ焼きそば作りってなんでしょうか?


 ふつうに作っているだけだと、そこまでパフォーマンスにはなりませんから、何か特徴的なモノがありそうですが……。


 出来上がった焼きそばもだいぶ減ってくると、残りを売り子に任せて、焼きそば担当だと思われる黒いバンダナをした男性――とはいえ、私と同じくらいの年齢でしょうか?――が鉄板の前に戻ってきます。


 そして、彼の足下においてあるクーラーボックスから麺や具材を取り出しました。

 それから鉄板に油を敷くと、焼きそばを作り始めます


 鉄板に放り込まれていく食材と麺の量が尋常ではありません。

 もちろん、こういう場で作る以上は一度に大量に作るというのはわかります。


 でもお祭りなどで見かける焼きそば作りなどと比べると、その倍以上の量が鉄板に乗せられていくのです。


 この屋台用の大きな鉄板でギリギリ作りきれるかどうかという大量の具を炒め合わせて行くわけですが――


「麺や具が宙を舞うかのようですね。

 それでいて、恐らくは火の通りや味のムラを気にしながら混ぜ合わせているようですが……」


 派手ながらも、派手なだけではないようです。

 大量の麺や具が宙を舞うような光景。そこにソースの香りがプラスされるワケですから、一度興味を引かれると最後まで見てしまうのは間違いありません。


「しかし、麺や具の動きがどこか不自然にも見えますね……。

 まるで手が四本以上あるかのような……」


 眉を顰めつつも、驚きを見せる和泉山さん。

 彼女の言うことも間違ってはいません。


「実際、手が四個あるようですから」

「それはどういう……」

「恐らくは開拓能力です。

 彼の周囲に、手首から先だけの手二つが浮いてますから」

「……納得です」


 自分自身の二本の腕と、彼の周囲を飛び交う二つの手。

 合計四ある手を器用に使って、大きな鉄板の上にある大量の麺と具を炒めているワケです。


 傍目から見れば、二つの手は見えないのですから、彼が巧みなテクニックで大量の焼きそばを炒めているように見えることでしょう。


 もちろん、その二つの手の使い方やコントロールだって簡単なモノではないでしょうから、そこに彼の努力が伺えます。


「それにしても良い匂いですね。

 市販の焼きそばソースではなく、独自に作ったソースを使っているのでしょうか?」

「よく分かったな。その通り、ソースはオレのオリジナルだ」


 何となく口にした言葉は、料理をしていた彼の耳に入ったようです。

 なので私は何気なさを装って、応えました。


「それは楽しみです。手が四本あるような動きも、ハッタリではないのですね」

「……おう、楽しみにしててくれよ」


 僅かにこちらを訝しみましたが、すぐに不敵な笑みに変わります。

 それでも、私のことが気になったのでしょう。


 私がわざと周囲に飛び交う手に目線を向けていれば、何か確信したような顔を見せました。


「さぁ完成だ。順番に並んで買っていってくれ!」


 気がつけば、さっきと同じような人だかりがまた生まれていました。

 彼の料理パフォーマンスはかなり人目を惹いているようです。


 私と和泉山さんも、販売の列に並んで購入していくことにします。


「五つください」

「はいよ!」


 威勢良く彼は答えて焼きそばをパックに詰めていき、袋に入れてくれます。


「アンタ、視えてるんだよな?」

「はい。そして、私は開拓能力を悪用する方を取り締まっています」


 ……実際の法的機関でもないのに、この言い方が定番化してしまっているのはちょっと思うところがありますが。

 まぁ通じやすいし、脅しにもなるので、きっとずっと使い続けてしまいそうです。


「開拓能力……そうか、そう呼ばれているチカラなのか」


 僅かに顔をしかめたのは、私から警告をされるとでも思ったからでしょう。

 でも、彼のように悪用する気配がない人をイチイチ捕まえたり、能力を封印したりして回る気はありません。


「例え私利私欲に使っていても、それが他人に迷惑を掛けるような使い方でないなら、大目にみますよ。今は能力者が増加傾向にあるので、悪用していない方をイチイチ追いかける余裕がありませんので」

「使って……いいのか?」

「料理や、あるいは大切なモノを守る以外に――人を傷つけたり、困らせたり……そういう使い方もされているんですか?」

「誓って言う。してない。これからもしない」

「ならばその言葉を信じましょう。おいしい料理を作る方に、悪い人はいないと信じたいので」

「料理も、オレ自身も、絶対にアンタの期待を裏切らねぇ。約束する」

「はい。信じます」


 その言葉は、彼自身の決意の現れのようにも思えました。

 信用にたる人物だと思います。


「せっかくですので、追加でもう五パックください」

「ああ。毎度ッ!」




 そうしてその場を離れてから、私は独りごちるように口にします。


「能力者……想定以上の速度で増えてそうです」

府中野こうや市中心に増えているのですよね?」

「はい。ですが市民だけでなく、たまたま町に居た人が目覚めるケースもあるのかもしれません」

「旅行者などが目覚めた場合、追い切れませんね」

「そうですね。どうしましょうか」


 全員が全員、悪用するとは思っていません。

 とはいえ、把握しきれないくらい能力者が多くいるかもしれないと想像すると、ちょっと怖さはありますね。


「すぐに答えは出るコトではありませんね。

 ところで、十パックも必要でした?」

「和泉山さんも草薙先生もいっぱい食べる人じゃないですか」

「お嬢様も人のコト言えませんよね?」


 ……それを踏まえてもちょっと買いすぎたかもしれませんけど。


 ・

 ・

 ・


「美味しいッ!」

「うまッ! この焼きそばウマッ!!」

「どんだけ買ってくるんだよって思ったけど、これは食えるッ!」

「お嬢様……あの料理人、ハッタリではありませんでしたね」

「これほどの腕前とは……! 普段はどこで包丁を振るってるんでしょうか?」


 このあと――私と草薙先生で追加で五パックほどリピートしにいくのでした。


=====================


【CHECK!!】

 謎の料理人 と 太陽の絆 が成立する兆しが生まれました!


【TIPS】

 どうやら謎の料理人は特定の店に勤めていないらしい。

 鷲子と静音とつむりは露骨にガッカリしたそうである。


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