76.夏と言えば海だそうです
【View ; Syuko】
アマヤカシ事件のあとは特にイベントもなく。
そのまま終業式を終えて夏休み突入です。
そして、夏休みといえば海だそうです。
正直、前世にしろ今世にしろ、あまり興味はないのですけれど。
――現在、私は
……黒を基調としたのツイストホルターネックのビキニを着て、薄いストールを纏った姿で。
さすがに夏休みのまっただ中だけあって、人が多いですね。
炎天下の中、これだけの人が集まる砂浜で、水着を着て遊ぶなんて正気とは思えません。
とはいえ――です。
草薙先生と花道に誘われたとなると、断れませんし、断る気もありませんので、一緒にやってきた次第です。
なお今着ている水着を買いに行ったとき一緒にいたのも草薙先生と花道さんでした。
ちなみに今、私の横にいるのは雨羽先輩です。
「鷲子ちゃん、黒系の色好きだったりする?」
「意識してませんでしたが、そうかもしれません」
黒を基調とした水着を来ているからでしょう。雨羽先輩がそんなことを訊ねてきました。
実際、黒を纏っていると落ち着く気がするので、好きなのは間違いありません。
「大人っぽくて鷲子ちゃんに似合ってる」
「ありがとうございます」
水着選びの時も花道さんから色の好みを聞かれたので、強いて言えば黒系が良いと答えたら、最終的にこの水着になった経緯があります。
ちなみに雨羽先輩が着ているのはボトムスがキュロットタイプのセパレート。
トップもボトムスも、ゆったりとしたフリルが付いているので、露出が少なく見えるタイプのものですね。
「先輩も可愛くて似合ってると思いますよ」
「ありがとー」
互いの水着を褒めあって、のんびりとしていると、着替えを終えた他のメンバーも次第に集まってきます。
「おまたせー!」
元気よく駆け寄ってきたのは、今回の発起人の一人である花道さん。
相変わらずチュパロリップスを口にくわえています。
彼女が着ているのはボトムスがボーイレッグタイプのビキニです。
その上に、ラッシュガードパーカーを羽織っていますが、前が全開な上に肩からもずり落ちて腕にひっかけてるだけなので、ラッシュガードが意味をなしてない感じです。
「うひひひっ! 十柄さん、やっぱイイ身体してるじゃねーかー!」
「そういう花道さんも中々だと思いますけど」
夏だからかあるいは水着だからか。なんだか普段よりもテンションが高い花道さん。
ちなみに、私と花道さんのこのやりとり――スリーサイズの話……ではなく。
「誤解されそうだけどこの二人……筋肉とかの話してるんだよなぁ」
「それでいくと、草薙先生もイイ身体してるコトになりますね」
「まぁそれなりに鍛えてはいるからね」
横では雨羽先輩といつの間にかやってきていた草薙先生がそんなやりとりしています。
先生はオシャレなタンキニです。
体型を誤魔化したり、露出を減らしたりする為の布が付いていることも多く一見ワンピースタイプに見えるモノも少なくないタンキニですが、先生が着ているのはセパレートであることがハッキリと分かるタイプ。
露出そのものにはためらいが無いのか、おへそや腰回りはハッキリと見えてます。
「ハタで見てると、食っちゃ寝しながら小説書いてる怠惰系大学女子でしかないししょーがその体型維持できてるのマジ謎ッ!」
「鍛えてるって言ってるだろうが! そういう華燐だって、日がな一日チュパロリップス舐め続けながらぬいぐるみ抱きしめてるだけだぞッ!」
「あたしだってちゃんと鍛えてまーっす!」
二人がなにやら言い争いを始めましたが――実際、花道さんと草薙先生は筋肉的にもスリーサイズ的にも良い体をしているんですよね。
鍛えているというのは伊達ではなく、鍛えているからこそスタイルが維持できていると言えるかもしれません。
ちなみに雨羽先輩はさすがに筋肉なんかは平均でしょうか?
でもスタイルはなかなかのモノです。
小柄で童顔ですが、見た目に反した豊かなモノをお持ちですからね。
普段はあまり気にならないのですが、今日は水着のせいか身体のラインが分かりやすい為、ギャップ感を強く感じてしまいます。
「すまん、遅くなった」
「うおおおおッ、静姉ッ!? ヤッバぁぁぁいッ!」
最後に現れた和泉山さんを見て、花道さんはテンションアップです。
「姉御の身体は完全に鍛えているそれだな。マジモンの細マッチョっていうかさ」
「細いのにたくましいって感じるくらいだものね」
実際、和泉山さんの腹筋ははっきりと割れているのが分かるくらいですからね。太くないだけで、全体的にガッチリしてます。
ただ体型がしっかり分かるからでしょうか?
普段のスーツ姿に比べて、その中性的な顔たちであっても、はっきりと女性であると分かります。
「着てるのはパレオ付きビキニなのに、ヘタなライフセイバーよりもライフセイバーっぽい空気纏ってるのがすごい」
「白瀬。それは褒めているのか?」
「ししょーはどう思ってるかともかく、あたしはすげー似合ってると思いまーす」
「あ、テメェ華燐ッ、あたしを売る気かッ!?」
喚く草薙先生を無視した花道さんから「ねぇ?」と同意を求められ、私と雨羽先輩はうなずきます。
嘘偽り無く似合ってますからね。
「お嬢様やキリカも同意するなら、まぁ……信じよう」
「うっひょー、あたしってば静姉からの信用ねぇ~!」
ケラケラと笑う花道さん。
なんていうか、本当に賑やかな人ですよね。
「まぁほとんどいつものメンツって感じだが、それなりに楽しもうぜ」
「おー!」
テンション上げて拳を振り上げるのは、雨羽先輩と花道さん。
それを横目で見ながら、思わず呟きます。
「草薙先生は陰キャ仲間だと思ってたんですけど」
「そこは否定しないけどな。でもあたしの場合、陰キャだろうと楽しめる場面じゃ楽しむぜ? 陰キャだろうと陰キャの枠に入りっぱなしじゃ、見えない世界があるからな」
自分が視える世界を広げることは、作家にとって大事だからな――と言われてしまうと、反論ができません。
「お嬢様ももう少しこういうコトを楽しむべきでは?」
「すでに太陽光で溶けそうでくじけそうなんですけど」
「日焼け止めは忘れてませんか? お嬢様は日焼けする前に赤くなるタイプだと思いますので重要ですよ」
「……ご心配ありがとうございます」
ううっ、和泉山さんの優しさが染みます。
とはいえ、染みはするけど、私の心境の理解はされてなさそうですが。
「鷲子ちゃんはさ、普段からあれこれ難しいコトを考えすぎなんだよ。
たまにはこういうところで、頭空っぽにして遊ぶコトを覚えた方がいいよ」
そう言って笑う草薙先生の顔は、こちらをからかっているものではありません。
むしろ、こちらを気遣うような導くような大人の笑みです。
「なるほど。お嬢様は、昔の私と同じタイプでしたか。
大人と居るコトが多すぎて、子供としての振るまいがよく分からないのですね」
「姉御も心当たりが?」
「まぁな。特殊な環境下で育ったせいもあって、自由になったのは高校の頃でな……。
その高校時代――それこそ最初の頃は、放課後にみんなで遊ぶという感覚が理解できなかった……いや、誰かとつるむという感覚そのものが理解できなかったな」
「それ大変じゃん! 静姉、よくココまで他人を理解できるようになった!」
花道さんの率直な――あるいは失礼というべき――感想に、和泉山さんはとても優しげな笑みを浮かべました。
「お前の言う通り、大変だった。他人の好意というのも理解できず、冷たくあしらうコトが多かったしな。
だが、それでもメゲずに声を掛けてくれる者や、特殊な環境下で身についた私の行動のクセを理解してくれる者がいてな。
彼や彼女らのおかげで、平和というモノを理解できるようになってきたんだ」
一瞬、『彼』と口にした時に、今まで見たことがないくらいに表情が緩んだような……。
「おっと? 今、静姉からオトメゴコロなスメルを感じた!」
「同感だ、華燐」
ニヤニヤと笑う二人。
「からかわないでくれ」
それに、珍しく顔を赤くする和泉山さん。
「普段かっこいい和泉山さんがなんか可愛い」
「キリカまで……ッ!」
腕利きで出来る人ってイメージでしたけど……そうですよね。和泉山さんにもプライベートはありますものね。
「みなさん。追求はあとでできますので、とりあえず場所取りしましょう」
「それもそうだな」
そうして場所取りして荷物を置いたところで――
「ねぇねぇキミたち。女の子だけで来てるの? よかったら、俺たちに混ざらない?」
早速というか何というか、ナンパしてくる男性三人組が現れました。
そんな彼らに対して――
和泉山さんと草薙先生は、虫けらを見るような目を向けるのでした。
===
【TIPS】
近隣には神社仏閣関係の観光名所も多く、観光客向けのおいしいお店も多い。
それらのお店も、海の家に料理を提供していたりするので、料理のおいしい海岸でもある。
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