54.僅かな進展へ期待を寄せましょう


【View ; Syuko】


「来たか……ん? そちらは?」


 昼休み。

 陽太郎くんに言われ、第二音楽室へとやってきた私です。

 そこへ、花道さんも連れてきているので、陽太郎くんが首を傾げました。


「今回の件に協力してもらいたくて。

 何度も説明する手間を省く為に、ついてきてもらいました」

花道ハナミチ 華燐カリンでっす。よろしく~」


 イェイという声が聞こえてきそうなテンションで名乗りをあがる花道さん。

 それに対して陽太郎くんは丁寧に名乗り返しました。


「二年の新堂シンドウ陽太郎ヨウタロウだ。よろしく頼む。

 鷲子くんとは、いわゆる幼なじみだ」

「新堂パイセンも強そうだし。良かったら今度、手合わせしない?」

「そういえば、朝は鷲子くんに負けないくらいの殺気を放っていたな」


 朝のことを思い出している陽太郎くんに私が細くするように告げます。


「隠れ趣味がストリートファイトだそうで」

「そうか」


 この事実に対しても表情を変えない陽太郎くんはすごいというかなんというか。

 実際は僅かに表情が動いてるんですけどね。


 ちなみに、ですが。

 幼なじみ特典というか何と言いますか、かすかな表情の揺れで何となく心情が読めます。


 ストリートファイトという単語と花道さんがあまり結びつかないのか、わりと困惑してますよ、あれ。


「機会があればな。とはいえ、多少の心得はあるが手合わせなどはあまり好きではないんだ」

「そっか。好きじゃないなら、仕方ないかぁ」


 それでも律儀に答える陽太郎くんに、花道さんは頭の後ろで手を組んであっけらかんと納得しました。


「バトルジャンキーかと思えば、無理強いしないのか」

「無理強いしたって楽しくないじゃん?

 強い人とバトりたいもあるけど、一番は楽しいバトルがしたいワケだし?」


 ロリポップを加えたまま、ニィっと笑う花道さんの姿に、陽太郎くんの警戒心が薄れた気配がします。


「そうか。俺もまだまだだな。見かけと言動だけで君を判断しすぎた」

「ん? そう? バトルジャンキーっていうのは結構合ってると思うけど」

「加えてチュパロリップスジャンキーですよね。今は何味を舐めてるんです?」

「バンディマート限定、イチゴおかかミルク」

「理解に苦しむフレーバーだった気がするんだが」

「チュパロリップス・ジャパン社、ちゃんと正気でお仕事してるんですよね?」


 花道さんがヘンテコフレーバーばかり舐めているのか、チュパロリップス・ジャパン社が出しているフレーバーがヘンテコばかりなのか……。

 このヘンテコフレーバーたちに対して、スペイン本社は怒ったりしないのでしょうか……?


「不味くないよ。おかかの味が邪魔だけど、不味くないし」

「素直にイチゴミルクが良いと言えばいい気がするんだが」


 それはそれで無粋というものだと思いますよ、陽太郎くん。


 ともあれ、自己紹介はこのくらいにして――


「さて、雑談はこの辺りにして本題に入りましょうか」




 まずは身に覚えがないのに、突然身体に落書きが描かれる現象についての話をします。


「ふむ。実例が存在し、被害がでているのであれば、手法は謎ながらトリックがあるのだろうな」


 大きく開いた右手の人差し指でメガネのブリッジを押し上げ、自分に言い聞かせるように口にする陽太郎くん。

 まぁ開拓能力フロンティア・スキルを知らないと、そういう反応になりますよね。


 そういえば、陽太郎くんは正史ゲームにおいてはプレイアブルキャラクターでしたけど、開拓能力はいつ覚醒したのでしょう?


 ともあれ、どうせ覚醒するんだから――という我ながら少し雑な理由で、今回は開拓能力について明かしちゃうつもりです。

 偶然とはいえ陽太郎くんが関わってくれるのであれば心強いですしね。

 クールで頭がキレるタイプの人がメンバーにいるだけで、犯人探しの安定感があがると思いますし。


 でも、私が陽太郎くんに説明しようとする前に、花道さんが訊ねてきます。


「十柄さん。それって開拓能力絡んでる?」

「十中八九」


 聞いているんだかいないんだか……という様子だった花道さんですが、少し真面目な顔をして訊ねてくるので、私も真面目な顔でうなずきます。


 横で陽太郎くんが何の話だ? というような顔をしていますが、続けて花道さんが訊ねてきたので、彼は口を噤みました。


「今のところの被害者の共通点あるん?」

「確認できている二人の女子生徒は同じクラスに在籍している方です」

「そのクラスに犯人がいるって考えてるカンジ?」

「一応は」

「ふーん」


 口にくわえているチュパロリップスのスティック部分を撫でながら、悩み出す花道さん。

 そこで、私と花道さんのやりとりに区切りがついたと思ったのか、陽太郎くんが訊ねてきます。


「鷲子くん。開拓能力とはなんだ?」

「一種の超能力です。世間一般がイメージするような万能性の高いモノではありませんが」


 私はそう答えてから、教卓の上を軽く撫でます。

 そして撫でた部分に芝桜を生やして、花を咲かせました。


 その様子に驚いている陽太郎くんに、それを示しながら続けます。


「使い手によって能力の在り方は大きく異なり、能力ごとに発動条件や制約が色々とありますが――私の場合、触れたモノないし私自身の身体の一部を植物化させたり、植物を生やしたりできます」


 説明をしてから、私は軽く指を鳴らすと、そこに茂っていた芝桜は影も形もなくなり、元の教卓へと戻りました。


「現在、この府中野こうや市には、原因不明の能力者覚醒多発事件が起きているを確認しています。

 今、私が追っている落書き事件は、そんな突発覚醒能力者が調子に乗って起こしている事件だと判断し、追いかけているんです」


 そこまで説明すると、彼は少しだけ難しい顔をしてから、意を決するように教卓に触れます。


 次の瞬間――触れた部分が壁のようにせり上がりました。


「見ての通り、触れた場所を中心に壁を作り出す。

 その壁のサイズは触れたモノに準ずるようだ。教卓の一部をせり上げる場合は、この一メートルくらいの高さが限度だが、廊下や道路などで使えばもっと横幅も高さも増やせる。

 見た目は触れたモノの形を変形させているように見えるが、物理的な何かと等価交換されているようではなさそうだ。

 あくまでも触れた対象のサイズが参照されるようで、蓋の上に壁を作り、下から覗いても壁の分だけ穴があいたりとかはしていなかった」


 陽太郎くんはそう説明してから、壁を元に戻しました。

 ゆっくりと教卓にとけ込むように、壁が下がって消えていきます。


「俺のこれも、その開拓能力というモノで良いのか?」

「……はい。陽太郎くんも開拓能力者フロンティア・アクターだったんですね」

「そのようだ。気がつくと使えるようになっていたのだが、意識しなければ発動しないので気にしないようにしていたが」


 興味なさげにメガネのブリッジを押し上げていますが――これは、良くも悪くも利用していたようですね。


「サボリスポットの扉のストッパーに便利そうな能力ですね」

「ああ。実に有用で……いや、何でもない」


 コホンと咳払いしていますけど、誤魔化せていません。

 でもまぁ、そこは誤魔化されておきましょう。


「能力名とか付けたりしてます?」

立ちふさウォール・オがるものブ・フェイトと呼んでいる」


 少しだけ自慢げな顔をしているのは、誰かにそれを言いたかったって解釈していいですかね?


「そういう君はどうなんだ? 何か名前でも付けているのか?」

静かに栄える植物園プラント・プラネットと呼んでます」

「…………」

「どうしました?」


 恐らく、心なしドヤって能力を口にした陽太郎くんに対し、私がさらりと流したことが不満なんでしょうか。

 あるいは私の能力名も悪くない――と思ったのか……。


 でもまぁ、そこは無視します。気にしてたら話進まないでしょうし。


「ともあれ、陽太郎くんがすでに開拓能力者なのは話が早くて助かります。

 犯人が能力者であるコト前提になりますからね。能力を持っているか能力に理解のある人でないと、巻き込めませんので」


 そういう意味では、朝に陽太郎くんと出会った時点で、能力者であろうとなかろうと、巻き込む気満々だったと言えますが。


「あのさー……ラクガキ犯って、教室の中だけでやってんのかな?」


 私と陽太郎くんが能力について話をしている間に、考えていたのか、花道さんがそんなことを訊ねてきます。


 ちゅぽんっとチュッパロリップスを口から抜き、それをピコピコ上下に動かしながら、彼女は自分の考えを告げました。


「部活とかやってんだったら、部員の子にも仕掛けてたりするんじゃね?」


 花道さんのその考えに、私と陽太郎くんは顔を見合わせるのでした。



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【TIPS】

 真面目、堅物、神経質のイヤミメガネ。

 彼を見た目と雰囲気と言動だけ見て言い表すならまさにそれ。

 ちなみに趣味は読書。主にマンガとラノベ。

 実は封印されし邪眼とか疼く右腕とか大好き。

 開拓能力を身につけ、その詳細を知り内心は浮かれてる。



 

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