2 父の日ありがとう

▪️


「ただいま」

帰宅してから、父さんの所へ真っ直ぐ向かった。

「あのさ、父さん。これ、」

「帰りが遅いぞ──。どこかで遊び歩いているのか?お前ももう受験生なんだから、あまり遅くなるな。勉強をしなさい」

父さんはいつも通り、私を束縛したがった。

遅く帰ればどこか遊び歩いていると。

テストの点数がいまいちなら勉強しなさいと。

彼氏が出来れば見定めてやると。

なんだよ、少しくらい。完璧になれだなんて、私はお前の道具じゃない。

良い点取っても、部活で活躍しても、何をしても、褒めてくれない。

それが、当たり前であるかのように…。


「…分かった」


でも、私も家族内でいざこざを起こしたくはないし、平和に過ごしたい。言うことを聞いていれば怒られもしないのだから、ここは頷いておく。

不貞腐れながらも、それを悟らせない。階段を登って、自分の部屋に入り、ベッドに向かって思い切りカバンを投げた。

「…今日、一生懸命選んだのに、渡せなかったじゃん…バカ父さん」

そのまま──は、ベッドに入り、眠りについた。


一夜明け、朝起きると、机に手紙を見つけた。


【風呂に入って、着替えてから寝なさい。風邪ひかないようにな。】


「……」

誰のせいだと思っているんだと、──は、リビングに向かった。

「…おはよう」

「おはよう」

そこにはスーツに着替えた父さんが、静かに珈琲を飲んでいた。

「娘の部屋に勝手に入んなよ」

ひとつ文句を言った顔は穏やかだった。

「…」

何も言わずに父さんは席を立った。

リビングを出て玄関に向かう。

「…素直じゃあないね、父さんも」

──は、その後姿を見送って、学校へ行く準備をした。

制服を少し直して、カバンを持った。

「ネクタイ、似合ってたじゃん。父さん」


【──、父の日ありがとう】


謝ることはないけど、お礼を言ってくれる父さんのことが、私は好きだ。

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