第9話後悔

 俺は帰ってくるなり早々ベッドへ倒れこみ意識を失った。そしてその失った意識は、家の電話の着信音によって目覚めさせられた。俺は重い瞼をこすりつつ、机の上に置いてある家電を手に取る。


「もしもし長戸ながとですけど」


「あ、悠人くん? 今日ピアノの練習来なかったけど何かあったの?」


 電話は俺が通っているピアノ教室からだった。


「すいません、今日は体調が悪くて」


 そんな見えいた嘘を先生に言うと、先生は疑ったりなどせず。


「あぁ、そうなのね。今まで休んだことなかった悠人くんが初めて休んだから先生心配になっちゃって」


 むしろ心配してくれていた。心苦しい。俺は口の中に溜まった唾をごくりと飲み込み。


「あの、来週は必ず行くので。それでは」


「はい、それじゃあお大事に」


 ガチャっと電話を切る。ほんと、高校三年になって早々何やってんだろ。そもそもテンションが上がっていたとはいえ、何で俺は告白なんてしたんだ?

 実際俺は、彼女のことを好きなのか? 告白した今でもわからない。あまり恋というものを体験したことがないからよくわからない。

 そもそもほとんど話したことない人間を好きになるなんてあるのか? 俺は彼女に好意を抱いていたのか……? まあそんなのはどうでもいいか。結局フられた事実に変わりはないのだし。

 ……あぁ、やだなぁ。明日になってみんな俺が振られたこと知ってたら嫌だなぁ。

 佐藤が学校中にバラしてたらやだなぁ。明日学校行きたくないなぁ。

 俺はまた陰鬱いんうつな気持ちになりつつ、布団を頭まで被った。もう一生ここから出たくない。そんなことを思ってしまうほど、俺の気分は堕ちている。そんな時に、トントンと部屋のドアがノックされる音がした。

 

「悠人、ご飯できたわよ」


 母親が俺のことを呼びに来てくれたらしい。でも今はご飯を食べるのも呼びかけに応じるのもめんどくさい。俺は布団を被ったままだんまりを決めていると、しびれを切らしたのか母親が部屋の中に入って俺の被っていた布団をバッとはぎ取った。


「こら悠人、返事ぐらいしてよ」


 少し強い口調で母親が言ってきたが、俺は無理やり布団を剥がされたことにムカついてしまった。生憎あいにく今日はとても虫のいどころが悪い。俺は母親を睨め付けると。


「今日はいらない」


 一言だけそう言って、布団をかぶり直した。俺の態度に腹が立ったのか呆れたのか母親は。


「そう、じゃあ先食べてるわね」


 と、冷たい声音を残して部屋を出ていってしまった。それを聞いて俺は枕をぎゅっと握りしめる。憧れていた人からは暴言を吐かれるし、母親とは少し喧嘩っぽくなるし、ほんと、過去に戻ってさっきの俺をぶん殴ってやりたい。俺は行き場のない怒りをぶつけるように、自分の枕をさっきよりも強く握りしめた。






















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