第7話佐藤リアムという人間

 私は人間が嫌いだ。いや、この言い方だと語弊ごへいがある。別にパパとママは大好きだし、おじいちゃんもおばあちゃんも私に優しいから好きだ。じゃあ年齢が近い人間が私は嫌いだ。特に同級生。いやでもかかわらなくてはいけない存在だ大っ嫌いだ。女子も男子もどちらも等しく嫌いだ。

 浅ましくて貪欲どんよくで自己中で他人をねたみ蹴落とすことしか考えてない低脳ばっかり。

 私は自分で言うのも何だが、とても整った顔立ちをしている。美的感覚なんてものは主観だ。人がどう映るかは、その人次第。だがそれでも、私は数多くの人間から見ても美人と言われるだろう。

 まず私はイギリスと日本のハーフだ。日本人は目が大きくて鼻が高い人間を可愛いやかっこいいと判断する。その点イギリス人は全ての基準を満たしている。だから私は、やたらと日本人の男子からモテる。

 でも、モテるのはいいことじゃない。むしろ不幸だ。私の人生がこんなに苦しくて辛いものになっているのは、この顔が原因だ。過去にあるトラウマのほとんどは、男子が原因で起こった女子とのいざこざだ。……と、今はそんな嫌な思い出をよみがえらせている場合ではない。

 今ちょうど、新しく転校してきた高校の職員室から出てきたところをよくわからない男子生徒に呼び止められた。誰だっけこの人? クラスメイトかな?

 そんなよく知りもしない謎の男子生徒Aに呼ばれ、私は言われるがままその男子の後をついて行っている。私がさっき三階から二階に降りてきた階段を登っている。

 一体どこに連れて行かれるんだろう? というか、この時点で薄々察しはついている。でも転校早々そんなことは起きないだろうと思いたい。本当はこの誘い出しを断りたかったが、それはできない。

 もうあんな嫌な思いをしないためにも、私は善人の仮面を被らなくてはならない。

 だからこの誘い出しを断るわけにはいかなかった……。かつ、かつ、と階段を上る音だけが響いている。

 登っている最中も無言で、本当に嫌な予感しかしない。そして一番最上階と思われる場所に着くと、そこで私をここまで連れてきた男子生徒が口を開いた。


「あの、彼氏とかいるの……?」


 あぁ。この質問で私はこの後の全てを悟った。


「ううん、いないよ」


 気持ち悪い。何だこの喋り方。こんなの私じゃない。でもこうするしかないんだ。そう割り切るしか他に道はないんだ。


「じゃあ」


 やめて。その先の言葉を口にしないでほしい。あの時の記憶が、思い出が、泥まみれの青春を思い出してしまう。でもそんな私のことなどお構いなしに、彼は先の言葉を突っかかりながら言い放った。


「ずっと前からす、好きでした。俺と付き合ってもらえませんか?」


 やっぱり。しかもずっと前から? 誰だよお前。私とお前は初対面じゃないか。本当に意味がわからない。顔がいいだけですぐに告白してくる低脳だから、頭がおかしくなってるのか? 

 私は胸のうちからふつふつと怒りが湧いてきた。今まで募りに募っていた憤りが、今、彼の言葉で爆発した。

  私は彼の方を睨みつけると。


「ふざけんな! 何が『ずっと前から好きでした』だ。私とお前は初対面だ。私のことをよく知りもしないで、本当にふざけるな! お前みたいなやつにそんなセリフを吐かれると、虫唾むしずが走る!」


 そこで私はハッと我に返った。やってしまった。勢いに任せて、思っていたことを口にしてしまった。完全にやらかした。

 こんなんじゃ、転校してきたのに前と同じ目にあう……。そんなのは嫌だ。でももう手遅れ。何もかもおしまいだ。私はさっと彼から目をそらす。


「あ、その、ごめんなさい」


 謝ってその場を立ち去った。本当に……最悪だ。

















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